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 俺は聞こえなかったふりをして、足を速める。教室前まで来ると、足を止め、山口を見上げる。

「それじゃあ、俺ここだから」
「ああ、そうだな――」

 山口は教室を見て残念そうにする。

「金山はいないのか」
「…この時間にいることはあんまりないよ」
「あ、そうなの? ふーん」

 何で山口はそんなに金山を気にするんだ? ただの好奇心か、それとも別の理由が…? 金山なら、山口に対しても平気でカツアゲしそうだから、恨みを買っている可能性もあるな。

「いないならいいや。じゃあまたな」

 ひらひらと手を振り、俺に背を向けると足を進める。俺は山口が教室へ入るのを見届けて、自分の教室へと足を踏み入れる。視線が体中に突き刺さる。遠慮のないこの視線に気分があまり良くないが、立場的に仕方ないと思うし、俺は皆を責めることはできない。
 席についてふうと息を吐く。前の空席をぼんやりと眺め、山口のことを考える。悪い奴ではない…と思う。若干信用できないけど。それでも、友達になろうと言ってくれたのは、普通に嬉しかった。口が思わず上がり、手で覆う。漸く、俺にも友達という存在が…!

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