19

 何を言われるのだろうと緊張しながら待っていると、金山は舌打ちだけして前を向き、結局何も言わなかった。
 なんだったんだ、今のは。消化不良のままだ。俺から訊くことはできないため、俺はもやもやしたままそれからの時間を過ごした。








 あっという間に帰る時間だ。金山は教室ずっといて、寝ることもせず、普通にしていた。当たり前のことだけど。金山が普通にしていると、何だかそわそわする。
 金山はいつも通りのぺちゃんこの鞄を肩にかける。そしてポケットに手を突っ込み、俺の方を向いた。
 一緒に帰るのか、今日は。憂鬱な気持ちになりながら、急いで帰る用意をする。俺は教科書は全部持って帰るようにしているから、時間がかかってしまう。引き出しの中の教科書を一気に取り出すと、つるっと手が滑り、手の中のものが全部床に落ちた。

「何やってんだよ、どんくせえな」

 呆れた顔でそう言うと、机に腰かける金山
。俺はしゃがんで教科書を掻き集めた。そして整えると鞄に突っ込んだ。その間金山は俺をじっと見つめて待っていた。立ち上がると、体がふらちとした。金山は眉を顰め、舌を打つと、俺の鞄を引っ手繰った。

「え、あ」

 金山は鞄を持ったまま歩き出す。重いとぶつぶつ文句を言いながら教室を出て行った。呆然とそれを見ていたが、ハッと我に返ると後を追った。

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