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 今、体はどうなっているだろう。暗いから傷がどれほど酷いのか、それともさほど酷くないのか分からない。見るのが怖いな。病院に行かなければならないほど酷かったらどうしよう。そこまで考えて、いやいやと首を振る。流石にそれはないだろう。そこまで酷いならもっと痛い筈だ。

「帰るか…」

 闇の中に自分の声が消えていく。時折虫の声が聞こえるだけで、ほとんど無音だ。なんだか怖くなってきた。怖いのは特別苦手ではないが、得意というほどでもないし、第一映画やゲームなど、非現実のものでの話だ。お化け屋敷はあまり入らないし、肝試しもやったことはない。
 ぶるりと体を震わせ、立ち上がる。ずきずきと体が痛んだが、大丈夫だ。俺は屋上を後にするべく、足を…というところで、あ、と思い出す。そうだ。鞄どこだ?
 慌てて周りを見回す。目が慣れてきて、さきほどより見える。しかし鞄が黒っぽいので見にくくはある。目を細めて、恐らく俺の鞄であろうものを手に取る。恐らくではなく、間違いなく俺のものだ。普通は夜の屋上に鞄なんて落ちていない。
 貴重品の確認をしたいが、暗いから今は無理か…。財布なくなってたらどうしよう。不安になって、早く帰らなければと、屋上の扉の方へ向かう。俺は漸く、屋上を後にした。







 電車に乗り込むと、寝ている人がちらほらいた。起きている人は、俺を見てぎょっとする。俺は苦笑を浮かべようとした。ぴりっと唇の所が痛む。
 携帯を取り出し、カメラを起動する。インカメラにして、目を見開く。これは酷い。顔が全体的に青い。今のところ腫れてはいないけど、時間が経ったら腫れるのかな、これって。



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