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 長い一日を終え、漸く帰ることができる時間になった。俺は前の席の金山を見て、こっそり溜息を吐く。結局、今日ずっと学校、しかも教室にいた。こんなことは今までなかったからか、先生もクラスメイトも皆戸惑っていた。そして、俺に哀れみの視線とどうにかしてくれという視線が向く。俺にはどうしようもないということを、そろそろ理解してほしい。どうみたって俺がどうにかできる人間じゃないだろ、金山は。
 そういえば帰りも一緒じゃないか。最悪だ。憂鬱な思いで席に座ったままでいると、伏せていた金山が突然体を起こした。びくりとして、俺も立ち上がろうとすると、金山はさっさと教室を出ていこうとする。俺は目を点にしてそれを見送った。あれ、一緒に帰るとか…ないのか。いや、ないに越したことがないというか、嫌だけど、拍子抜けたっていうか。念のため教室を出て姿を確認するが、どこにもいない。俺は、はー…と長い息を吐いて、その場に座り込む。なんだか一気に疲れが押し寄せてきた。
 よし、帰ろう。俺はよろよろと立ち上がって、そのまま教室を出る。今日は帰ったら寝よう。課題はまだやらなくて大丈夫…だと思う。数学だけ不安だから、それだけは済ませるかな。
そんなことを考えながら階段を下りていると、目の前に誰かが立ち止まる。横にずれるが同じように目の前の人も動く。俺は顔を上げた。見覚えのある顔に目を見開く。

「よお」

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男。昼飯を買いに行ったときにぶつかった男だ。嫌な予感がして、一歩下がる。階段だから下がりにくい。

「ちょっとさあ、パシリくんに訊きてえことあんだけど」

 男が笑みを深くする。訊きたいことって、絶対金山のことだろ! 俺は何も知らない!

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