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 廊下を歩いていると、周りの声が耳に入ってきた。「あいつ、金山の…」「地味だけど金山と良く一緒にいるよな」俺は金山のせいで若干有名人になっている。もちろん俺自身が有名なわけではないから、名前までは広まっていない。皆一様に「金山が引き連れている奴」「金山のパシリ」と俺のことを呼んでいる。
 溜息を吐きながら、売店へ向かう。その間もちらちらと視線を感じ、胸がモヤモヤする。金山と一緒にいるときは特に何も思わないんだが、一人だとどうしても気になるというか…。視線の種類は主に憐れみだ。女子からの視線がそれだ。男子の中には言いなりになっている俺を見て情けないと思っている奴がいる。他人事だからそう思えるんだ。
 俺は鮭お握りとペットボトルのお茶を手に取ると、レジへ向かう。その時、どんと人にぶつかった。俺は尻餅をついた。謝ろうと顔を上げて、――固まった。見るからにヤバそうな顔つきの奴がいた。人をイラつかせるような、馬鹿にしたような笑みで俺を見下げる。

「あぁ、当たっちゃったぁ? ワリィワリィ」

 なにが当たっちゃったぁ? だよ。その顔は、絶対わざとだろ。しかしそんなことを言っても面倒なことになるだけだ。チキンだから言えないというのもある。

「いえ…」

 俺は苦笑を浮かべて立ち上がる。尻餅をついた時のじんじんとした痛みを感じながら、頭を小さく下げて、横を通ろうとした。

「金山にヨロシクなァ、パシリくん」

 パシリくん。ずんり胸が重くなる。 
 金山にヨロシクと言ったその顔は、何かを企んでいそうだった。あの金山に、何かをするつもりだろうか。……俺には金山がどうなろうと関係ない。

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