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 それに対して、金山は言った。「気安く名前呼んでんじゃねえカス」え、そっちかよ。気安く呼ぶなって、じゃあ何て呼べばいいんだ。様付けか? お前の名前にそこまでの価値ないだろ。
 金山は大きな音を立てて舌打ちし、前を向く。俺の弁当はまだ金山の手にある。……もう、俺のもとに戻ってくることはないだろう。……ということは、だ。俺、昼飯抜き?
 顔を引き攣らせて金山の背中を睨む。そんなことをしても俺は結局何も言えないのだし、万が一振り替えって目でも合ったりしたら大変だ。俺は鞄から財布を取り出し、見つめる。この財布も薄くなったもんだ…というか、金山のせいで貯金がなくなった。お年玉や短期バイト、お小遣いをこつこつ貯めていたのに!
 いつかこの金を取り返してやる。いつか! 心の中で決意して立ち上がる。流石に食べ盛りの男が昼飯を抜くというのはつらい。仕方ないから買ってこよう。俺が食べるはずだったものを金山に盗られただけで、金山の分を買わなければならなかったんだから別に良い。というか、むしろ高いものを買わなくて済むから得したと言っていいかもしれない。
 静かな空間に音が響いたからか、金山が振り向く。立ち上がっている俺を見て、眉間に寄せられた皺がより深くなった。握られている財布を見て察したのだろう。というかいつも俺に命令する金山なら分かって当然だろう。俺がいつも弁当を食べているということも知っているはずだからな。
 は、と鼻で笑う金山。その手にはしっかり俺の箸が握られている。馬鹿にするような言葉が飛んでくるかと思ったが、何も言わず弁当を食べ始めた。
 これは、行っていいということだろうか? 俺はおどおどと挙動不審な動きをして、ごくりと唾を飲むと、教室を飛び出した。

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