25

 少し仮眠を取ろうと思った。気が付いたら外は真っ暗で、時計を見たら十九時だった。携帯がピカピカ光っていたので取って見てみると、加奈からのメールだった。一気に頭が覚醒する。メールは一応返信した。内容は俺の体調を心配するものだったのに、素っ気ない返事をしてしまったので罪悪感で胸が痛む。メールを開く。月が綺麗だということが書かれていた。いつも通りのメールにほっとして起き上がると、窓の外を見る。ここからでは見えない。ベッドから降りて、窓に近づく。覗き込むと、確かに、真っ暗な闇の中にぽつりと月のみが輝いていた。
 代田が傍にいる時、加奈をほったらかしていたというのに、代田がいなくなったら、どうしても加奈に会いたくなった。最低だ。誰でもいいというわけではないが、代田の代わりにしているようで、自己嫌悪する。

『そっちに行く』

 返信すると、突然携帯が鳴りだす。メールではなく、電話だ。言うまでもなく相手は加奈で、俺は苦笑しながら電話に出た。

「もしもし」
『も、もしもし。そっちに行くって、和樹くん風邪引いてるんだから駄目だよ』

 ずきりと胸が痛む。こんなに心配させてるのにずっと風邪だと嘘吐いて、本当に最低だ、俺。

「もう治ったよ」
『治ったの? それは良かった! …けど、ぶり返したら大変だから』
「本当に大丈夫」

 安心させるように言うと、加奈は小さく唸る。そして分かった、と言った。

『私がそっちに行くね』
「え? 危ないだろ」
『大丈夫! じゃあ、ちょっと待っててね』
「ちょ、おい」

 ぷつ、と電話が切れる。慌てて掛け直すが、虚しくコール音が響くだけで電話は繋がらない。溜息を吐いて、着信を止める。
 加奈のことをどうするか、迷っている。加奈のことは好きだし、代田が言った通り、大切にしたいと思う。でも、俺にそんな資格があるのか?
 月を見上げる。暖かみのある光を見ていると、代田を思い出す。代田は太陽でもあり月のようでもあった。
 そういえば。俺は、代田に別れの挨拶をなにもしていない。

「……じゃあな」

 代田が言った言葉をそのまま月に向かって言う。その時チャイムが鳴って、俺は部屋のドアを見る。最後に月を一瞥して、息を吐くと、俺は加奈を迎えるために部屋を出た。













fin.


長い上に中途半端で、もうちょっとちゃんと話を作るんだったなあと思います。
以下、登場人物紹介です。

遠野 和樹(とおの かずき)

心の奥底に代田への想いが残っていた。
加奈とは一度別れたが、すぐによりを戻した。

代田(しろた)

爽やかで人に好かれる。
少し冷めたところがある。
事故でこの世を去った。

加奈(かな)

和樹の彼女。
優しい。

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