23

 あっという間に時は来た。目の前には仏頂面のシュウがいる。俺はそんなシュウを睨んでみるが、表情をぴくりとも動かさない。まるで精巧に作られた人形のようで、少し怖い。

「じゃあ、とっとと済ませるよ」

 どうしても早く終わらせたいのか、シュウは口早にそう言った。何かを取り出したところで、代田が声をかける。

「ちょっといいか?」
「…なに?」
「最後だから、話させてくれよ」

 代田は苦笑する。そうだ。最後なんだ。別れの挨拶くらいさせろと俺も目で訴える。

「…少しで終わるなら、いいよ」

 シュウは少し考えた後、ぶっきらぼうき言った。俺と代田はほっとして、顔を見合わせる。

「僕はここにいていいわけ?」
「あー…まあ、俺はいいけど、遠野は?」
「……いい、けど」

 でも、じっと見られているとちょっと嫌だな。シュウにそんなことを言っても聞いてくれなさそうだから、俺はちらりとシュウを見るだけにした。

「ふうん…じゃ、そこにいるから」

 シュウは部屋の隅を指差す。ここからの距離はそこまでない。しかし室内では一番遠いわけだから、一応気を遣っている…のか?
 シュウは結局いいやつなのか悪いやつなのか、良くわからない。
 シュウが行ってしまうまで待ってから、俺たちは向き合う。そして代田は、うーん、と迷い始めた。

「何言おうかな」
「…なんでもいいだろ」
「いや、良くないだろ」

 最後なんだから。そう言って、代田は笑う。最後最後と何度も言わないでほしい。

「んー、じゃあ、えーと、遠野、今までありがとう。迷惑かけて悪かったな。でも、楽しかった」
「……俺も、楽しかった。迷惑なんてかけられてない」

 代田は嬉しそうに笑う。そして、携帯を取り出した。――俺のものだ。

「彼女、大切にしろよ」
「な――」

 ぐっと手に押し付けられる。なんで、と言おうとしたとき、代田がシュウを見る。すると、代田が突然光だす。やがて薄くなり、我に返った俺は叫んだ。「待てよ!」
 しかし聞こえているのか聞こえていないのか、代田は目を細めて笑うだけだった。


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