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 俺の中で遠野は、一言で表すと普通だった。頭がいいわけでも、運動ができるわけでも、ムードメーカーなわけでもない。どこにでもいる、普通の奴だった。俺にとってはただのクラスメイトであり、それ以上でも以下でもない。
 そんな奴に、俺は、今。

「あの、引くかもしんねえけど…俺、代田が好き、なんだ」

 ――告白、されていた。
 それはあまりにも突然で、俺を混乱させるものだった。恋愛対象は異性であることが当たり前だと思っていた俺には、この告白は異様なものに感じられた。別に偏見はない。好きなものを好きだと言って何が悪いんだって思う。
 俺はどうしようかと考えた。目の前にいるのがいつものように女ならば、即断っていたところだ。しかし相手は遠野。男だ。ちょっとだけ好奇心があった。男と付き合うというのは、どういうものだろうと。しかし好きでもないのに付き合うのは遠野に対して申し訳ない。俺は確かにそう思ったのに、気が付けば俺もだと返事をしてしまっていた。すぐに訂正しようとしたが、遠野の顔を見て、できなくなった。

「信じられない。嬉しい」

 そう言ってうれし涙を流す遠野に、俺は胸を締め付けられるような思いをした。勿論ときめいたとかそういうものでなくて、罪悪感によるものだった。初めて女を振った時でさえ、こんな想いはしなかった。
 この時、付き合うことはできないと言えばよかった。でも、俺は、引き攣った笑顔で、ヨロシクと言ってしまったのだ。俺のそんな顔に気付かない遠野は、嬉しそうに頷くばかりだった。
 この日から、遠野は俺の特別――恋人になった。



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