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「俺は…遠野に、謝らないといけないことがある」

 固い声でそう言って、代田は話し始めた――。



















(side:代田)

「好きです」

 またか。俺は頬を染めて想いを告げて来る女を見下ろして、うんざりした。呼び出された時点で予想は付いていたが、もしかしたら。万が一にも違う理由があるかもしれない。しかしこれまで告白以外だった試しはない。
 告白してくるということは、俺に好意を抱いているということだから、まあ、悪い気はしない。嫌われるよりずっといい。でも、恋愛は面倒だ。そう言ったものは興味がない…というか、高校生活には必要ない。時間も金も無駄に消費されるだけだ。

「ごめん、気持ちは嬉しいんだけど…」

 俺は眉を下げ、申し訳なさを漂わせる。そうすれば皆ころっと騙されてくれる。案の定、彼女は瞳に涙を浮かべ、何かを口にしながら去っていく。俺はその姿を見送って、息を吐く。
 教室へ向かっていると、入り口から一人の男が出てきた。そのクラスメイト、遠野を何となく見ていると目が合ってしまった。遠野とは仲が悪くはない。悪くはないということは良くもないということだけど。

「遠野、どっか行くの?」

 俺が話しかけるとは思わなかったのか、目を丸くする遠野。にこにこと愛想よく笑っていたら、遠野が口を開いた。

「遠野くん」

 教室から女が出てきた。名前は内山。少し大人しめの子で、クラス委員長をやっている。

「図書室、行くんだよね? 私も一緒に行っていいかな」
「ああ、いいよ」
「良かった。遠野くん、推理小説好きだって言ってたから読んでみたくて」

 なんとなく、むっとした。内山が、遠野のことを知っているのだと俺に見せつけているように感じられた。

「図書室に行くんだ」

 にこりと笑みを浮かべると、内山は今俺の存在を知りましたとばかりに目を瞬いた。そして遠野を見て、話し中だったかと申し訳なさそうに謝った。女はいつも俺にばかり構ってくるが、内山は違うらしい。というか。どう見たって内山は遠野のことが好きだ。だから俺には興味がないんだろう。
 一瞬だけもやっとする。それが不快で、俺は笑みを崩さないまま、一言声をかけて教室へ入った。

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