16

「それは…」

 言いにくそうに視線をあっちへ遣ったり、こっちへ遣ったりとしている。シュウはやはり呆れた顔で代田を見た。今度は何も口を出さない。代田に言わせるつもりらしい。俺はじっと代田を見つめる。

「俺は…嫉妬、して」
「え?」

 嫉妬? 俺の何に嫉妬したと言うんだ? 生きていることかと思ったが、嫉妬という表現はおかしい気がする。

「遠野には彼女がいるだろ? そこには俺がいたはずなのに、俺はどうやったってそこにはいられない。いられないなら、いっそのこと遠野をこっちに引きずり込みたいと思った」

 代田から発せられた言葉に耳を疑う。俺は殺されそうだったのか? あんなに心配そうな顔をしていたのに。あれは何だったんだよ。…それに、俺がいたはずなのにって何だよ。

「別れてほしいって…言ったじゃねえか」

 口からホロリと言葉が零れ落ちる。俺は慌てて口を押さえた。しかし、その言葉はしっかり代田に届いたようで、ハッとした顔で俺を見た。その瞳は頼りなく揺れている。

「…もう言っちゃいなよ。本当は何で会いに来たかか分かってるんだろ」

 それから鼻で笑って、言った。「いや、最初から分かっていたって言う方が正しいか」
 俺は信じられない気持ちで目を見開く。代田を見ると、俯いていて表情は分からなかったが、シュウの言っていることが本当なんだということは分かった。

「…代田」
「ごめん、遠野」

 代田が顔を上げた。代田は覚悟を決めたような顔で、瞳には強い輝きが戻っていた。代田だ、と思う。代田には情けない表情は似合わない。この意思の強い顔つきをしてこそ、代田だと思う。

「シュウの言う通りだよ」

 そう言って、代田は苦笑した。


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