13

「ごめん」

 ぽつりと、代田が呟いた。視界がぼやけているせいで正確に表情を読み取ることはできなかったが、声のトーンや薄らと見える顔から、苦しそうだなと思った。

「ごめんな…」

 俺は布団から手を出して、代田に伸ばす。触れた頬はひんやりとして気持ちがよかった。そんな顔をするな。俺がお前を守るから。だって、俺はお前の――。
 意識が朦朧となる。俺は体の力を抜き、目を閉じて流れに身を任せた。













「あの、引くかもしんねえけど…俺、代田が好き、なんだ」

 夕日が照らす教室の中。俺は手をぎゅっと握りしめて、想いを告げていた。視線は床に固定されていて、代田を視界に入れていない。
 俺は代田の後ろにいた。この時どんな顔をしていたのだろうと気になり、代田の顔を覗き込む。そして、息をのんだ。
 代田は笑っていた。いつもの爽やかな笑顔ではない。人を小馬鹿にしたようなものだった。

「俺もだ」

 今度こそちゃんと笑って、代田は言う。漸く顔を上げた俺はそれを目にして、驚いて、嬉しそうに頬を染める。代田も俺のことを好きだ。そう思っていることだろう。違う。――違うんだ。首を振って呟くが、それに反応する者は誰一人としていない。
 代田がこっちを見て、笑った気がした。











 ふ、と意識が浮上する。体を起こして溜息を吐く。嫌な夢を見てしまった。……あれは、本当にただの夢、なのだろうか。 
 はっと周りを見るが、代田はいない。どこへ行ったんだろう。

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