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そういえば代田は高所恐怖症ではなかっただろうか。あれ、と思ったその疑問も、たいしたものじゃないと、すぐに頭から消し去る。
「あの時一緒にいた奴…あれ、彼女?」
「え…ああ、加奈? うん、まあ」
あれ、と言われ、少し気分が悪くなる。加奈の顔を思い浮かべながら頷く。元恋人に彼女のことを訊かれるのは、気まずいな。
「そうか…」
一瞬だけ、本当に一瞬だけ代田の顔が恐ろしいものに変わった気がして、俺は硬直する。
「ん?」
汗をたらりと流す俺、を見て首を傾げる。不思議そうな顔をしていた。気のせいだ。気のせいだと思うのに、何だか、寒気がした。
「なんでもない…」
小さな違和感に俺は気づかないふりをした。
一週間が経った。
俺はげほ、と咳をして体を丸める。ずるずると鼻水が垂れて来た。頭が熱いのに、妙な寒気があった。ぶるりと体を震わせた。
「大丈夫か?」
すっかり隣にいることが普通になってしまった幽霊、代田が顔を覗き込んでくる。俺はぼうっとした頭でなんとか頷き、枕に顔を押し付ける。熱はないはずなのに、風のような症状がでていた。一人暮らしだとこんな時寂しくなるが、代田がいるおかげで少し楽になった気がする。
テストが近いため、なるべく休みたくなかったが仕方ない。これが風邪だったとしたら移したらいけないし、そもそもこんな状態で行っても集中できない。
「病院行く?」
「いや…」
掠れた声で否定する。動きたくない。代田はそうかとだけ言って、黙ってしまった。
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