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 この学園には温室があって、室内の奥の扉を入ると、何故か椅子とテーブルがあるのだ。流石に生徒会室に入るわけにはいかないので、――いや、実はここも生徒会しか入っちゃ駄目なんだけど、特別に入れてもらった。
 そして、どうしてか給湯室や冷蔵庫もあり、お菓子はそこに保存されているらしい。…絶対おかしいぞ、この学園。……あれ、今更か?
 俺の前にチーズケーキが置かれる。周りを見ると、それぞれ違う種類のケーキだった。ん? どうして俺何も言っていないのにチーズケーキが好きって分かったんだろう。勘か偶然か?

「何が飲みたいですか?」

 明らかに俺に視線が向いている。え、なに? 俺だけに入れるの? いや、ていうか手に持ってるの紅茶だよね? 一種類しかないよね?
 つまり、紅茶にしろ、ということか、と一人頷き、口を開いた……が。

「俺コーヒー!」
「緑茶で」
「僕はぁ、レモンティーが飲みたいなぁ」

 空気を読まない生徒会役員がバラバラに要求をした。うわー…青筋浮かんでないか?
 副会長は、凍り付きそうなくらいの冷笑を浮かべて、皆を見回す。好き勝手言った生徒会は兎も角、何も悪いことを言っていない俺まで居心地が悪くなる。
 ふふ、と小さく笑いながら、見せびらかすように紅茶の入った入れ物を持ち上げる。我に返った書記が引き攣った笑みを浮かべる。

「や、やっぱり紅茶が、い、いいかなあ〜?」
「し、仕方ないので僕も紅茶で構いませんよ」
「…僕もぉ」
「孝太くんはどうですか?」
「こ、紅茶で…」

 副会長の圧力に、俺も顔を引き攣らせながら、乾いた笑いを漏らした。
 紅茶を淹れに行った背中を見送り、俺たちは同時に溜息を吐く。……ていうか、改めて思うけど、俺場違いすぎじゃねえ?
 そんなことを考えていると、俺の向かいに座っている書記が、身を乗り出してにんまりと笑う。

「それでさぁ、孝ちゃんに相談したいことがあるんだよね」

 やっと本題か。
 会計たちは不満そうな顔で書記を見ている。

「あ、は、はい。転入生…木下のことですよ、ね?」
「うんうん。俺ね、あーんってやってみたいんだけど、いきなり舞ちゃんじゃ緊張しちゃうからさ」

 そう言うと、自分のケーキを小さく切り、フォークに刺すと、それを俺に向けた。

「はい、あーん」

 ……な、なんですと?

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