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 もう分かっていると思うが、俺は代田と付き合っていた。勿論代田は男で、俺も男だ。男が恋愛対象なわけではない。好きになった相手が偶々男だっただけだ。告白は俺から。引かれて終わりだと思っていた。そんなことをするやつじゃないと分かっていても、俺が周りから奇異の目で見られることは必然だと思っていたのだ。しかし、代田は言ったのである。「俺もだ」と。
 あの言葉に、嘘はなかったように思える。代田はそんな嘘を吐くような人間ではない。少なくとも俺はそう思っている。
 何分これまで彼女ができたことがない身だったので、お付き合いというものは未知だった。しかし、イケメンで性格も良い代田はそうではなかったので、俺は代田から色々なことを教わった。交際は極めて順調だったように思える。それなのに。付き合って数ヶ月というところで俺はフラれ、代田はこの世を去った。そして今、代田は俺に会いに来たという。

「遠野」

 意識が引き戻される。俺は代田に顔を向けた。代田は口角を上げて笑う。しかし、寂しげな笑みだった。

「……ごめんな」

 あの事だとすぐに分かった。代田も思い出していたのだろうか。俺は首を振る。あの時、どうして急に別れてほしいなんて言ったのか。今、――訊けばいいんじゃないか? そう思って口を開いたが、言葉が喉につっかえて出てこない。
 風の音が空しく響く公園。俺たちは二人とも口をむっつりと閉ざして、ただ前を見ていた。

「そういえば、シュウだけど」

 沈黙に耐えられなかったのか、思い出しただけなのかは分からないが、代田が話を振ってきた。俺はうんと相槌をしてちらりと代田を見る。

「高校生らしいぞ。男子高校生」
「こっ」

 高校生!? あんぐりと口を開けていると、代田が付け加えた。「しかも三年」

「…さ、三年…」

 俺と二つしか変わらないのか、あれで。それに、男と言うのも信じたくない。

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