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 「それ」の横には、人がいた。俺はその人から目が離せなかった。俺が凝視しているのに気付いたのか、こっちを向く。

「和樹くん? ……わ、あの子可愛い」

 加奈が感嘆の声を上げる。俺はこくりと頷いた。加奈の言う通り、可愛らしい。まだ幼いように見える。中学生だろうか。
 少し考えるような素振りをして、こっちへ歩いてくる。

「アンタ」
「へ」

 あ、あんた?
 まさか初対面の子どもにアンタ呼ばわりされるとは思わず、目を点にする。さらさらのクリーム色のショートヘアが風によって遊ばれる。可愛らしい顔だが、近くで見ると少しきつい顔つきだ。気が強いんだろうなと思った。

「――アンタ、遠野和樹、だろ」

 目を見開く。どうして名前を知っているんだ。知り合い…ではないだろう。こんな子いたら忘れないし、というよりまず、知り合いだったら名前の確認なんてしない。

「その様子じゃあってるみたいだね。ちょっと話があるから、来てほしいんだけど」

 ちら、と加奈を見る。加奈は女の子の視線を受けて、あわあわと手を振った。

「あ、私のことは気にしないで。…えっと、じゃあ、私、今日は先に帰るね」
「……悪い」
「ううん。じゃあね。また明日」

 加奈は笑顔で手を振る。俺は振り返して、加奈の背中が見えなくなるまで視線を留めていた。

「もういい?」
「あ、うん――っ」

 は、とする。女の子のすぐ横に、白い物体。目を見開き、固まっていると、女の子が訝し気な表情をする。そして合点がいったというように頷いた。 

「ああ、みえてるのか」
「みえてる……って、この、白い靄みたいなの?」

 やっぱり幻覚じゃなかったのか。自分だけがおかしいんじゃないと少しだけほっとするが、気味が悪い。

「これはね、アンタに会いにきた魂だよ」
「俺に会いにきた…?」

た、魂?

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