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「おい、急にどうしたんだよ?」

 訝しげな表情で店から出てきた男を一瞥して、なんでもないとだけ答える。意味が分からないと言いたげだったが、追求はしないようで、俺の横を通り過ぎた。次はどこに行くんだろう。流石にもう帰るよな?
 俺の予想通り、足は駅へと向かっていた。暫くすると駅に到着し、ホームで次の電車を待つ。俺たちの間に会話はない。
 …で、結局なんだったんだ、今日の出来事は? つまらなかったということはないけれど、少し疲れたかな。主に隣の男の所為で。
 駅のホームで電車を待ちながらそんなことをぼんやり考えていると、ふいに、男が口を開いた。

「ほらよ」

 その言葉と共にポイッと俺に何かを投げた。手に収まるくらいの大きさで、茶色いビニール素材の袋のそれに、眉を顰めて男を見上げると、男はこっちを向いちゃいなかった。答えてくれそうな気がしないので、セロハンテープを剥いで袋を開ける。中の物を取り出すと、しゃら、と金属の擦れる音が鳴った。

「――え」

 俺は目を見開いてそれを凝視する。これは、先程俺がいいな、と思った云十万のネックレスで。俺は慌てて男に詰め寄る。

「お、おいこれ!」
「あ? さっき食い入るように見てただろ、それ」

 え、お、俺そんなに見てた…? 羞恥に顔が赤くなる。男はそんな俺を、一度驚いたように見ると、ニヤリと笑った。

「やるよ」
「いや、こんな高い物…!」
「金とか気にすんじゃねえ」
「で、でも」
「うぜえ。要らなかったら捨てるぞ」
「すっ」

 す、捨てるだと……!?
 この糞金持ち! ななななんて勿体無いことをするんだ!? え、す、捨てるくらいなら俺が貰った方がいい、のか?

「あ、有り難う…」

 返ってきたのが、ふん、と言うぶっきら棒なものだけだったけれど、俺は手の中のネックレスを見つめ、小さく笑った。

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