12

 僕はごめんと口にする。伊藤くんは訝しそうに眉を顰めた。

「それは何に対しての謝罪?」
「…色々?」

 僕はえへ、と笑って目を逸らす。すぐに頬を抓られ、強制的に伊藤くんの方へと向かされた。

「あ? こむらんの分際で俺のこと振ってんの?」
「い、いひゃいよ」
「痛くしてんだよ」

 さっき今ならまだ今まで通りの生活ができるとかなんとか言っていたのに。ぱっと放された頬はじんじんと痛くなる。僕は頬を押さえて、伊藤くんをじっとりと睨む。伊藤くんはそんな僕を見て鼻で笑う。

「俺から離れないって選択した時点で拒否権はない」
「えええ?」

 僕はとんでもないことを言う伊藤くんに声を裏返した。でも、なぜだか悪い気はしなかった。その理由を知ってしまったらもう戻れない気がする。それでも、僕は思い切って、気持ちを伝えて――みようとした。口を開いたところで人の声がして、僕ははっと我に返る。声は段々大きくなってくる。音楽が終わったんだ。いつもチャイムが鳴る前に終わるから、今日も早めに終わったんだろう。

「げ、もう終わったのかよ」

 伊藤くんはちらりと時計を見て、舌打ちをする。立ち上がり、ガタリと椅子を鳴らした。僕は伊藤くんを見上げる。伊藤くんは、僕を見つめ返し、やがてにやりと笑った。何やら嫌な予感がして僕も立ち上がろうとした時、後頭部を掴まれた。そしてちゅ、と額に柔らかい物が当たった瞬間、ドアががらりと開く。人の声が、一瞬で消えた。

「じゃ、またねー」

 にこにこと笑い、手を振って伊藤くんは去っていく。
 とんでもないことをしてくれた。でも、それが――嫌ではないと思ってしまうのだから、僕は、凍り付いた教室の中で一人、顔を赤くして頭を抱えた。

















fin.


中途半端な終わり方で申し訳ないです…!

以下登場人物紹介。

小村(こむら)

少し冷めているが普通の高校生。
虐められていた。

伊藤(いとう)

チャラい。短気。ころころ感情が変わる。
いろんな意味でギャップがある。

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