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「びっくりしたー? びっくりしたよねえ」

 伊藤くんはくすくすと笑う。僕は小さく頷いた。

「俺はすぐに分かったけど。全然変わってないよね」

 そうなんだろうか。僕は、変わった気がする。あの日、あの時、僕がしたことで、僕は信頼という言葉を信じなくなった。

「あの時は訊けなかったんだけどさ」

 伊藤くんは僕を見る。ぎろりと睨んでいるような鋭い目に、視線を逸らしたくなった。けれど、ここで逸らしてはいけない気がして、僕も伊藤くんを見つめ返す。への字に曲がった口が、一瞬だけ上がったように見えた。

「どうして俺を庇った?」
「それは…」
「俺が金魚殺したの、お前知ってただろ」

 僕は、庇ったわけじゃない。
 伊藤くんは、大人しい子だった。大人しいと言えば聞こえはいいけど、要するに暗い子だった。僕は偶然伊藤くんが水槽を倒して金魚を死なせてしまったのを目撃した。僕が手伝えば金魚は救えたかもしれない。でもそうしなかった。僕は伊藤くんが嫌いだったからだ。なぜかと言われると、良く分からない。とにかく、嫌いだった。困ればいいと思った。でもまさか、伊藤くんが殺した事実を僕が知っているということを分かっていたなんて。あの時、去る姿でも見られていたのだろうか。
 あの日、犯人だと言われ詰られる姿を見て、胸が締め付けられたように痛くなった。だから、僕は言ってしまったのだ。僕は先生から信頼されていると思っていたし、友達も、なんだ、お前かよ。というような一言で終わると信じていたんだ。信じていたからこそ、言っても大丈夫だと勘違いした。でも、現実は非情だ。皆、掌を返したように、僕を責め立て始めた。僕はそれから、何か起こるたび犯人にされた。友達なんてもういない。先生の目も冷めていた。

『僕です。僕が、殺しました』

 一度やっていないと言ってみたことがあったが、誰も信じようとしない。僕は認めるしかなかった。

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