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「お前、名前何?」
「小村だけど…」
「こむら、ねえ。ふうん」

 伊藤くんは何度か呟いて、興味なさげに呟いた。「そんでこれ、どこ持ってけばいいの?」

「あ、教室に……」
「りょーかい」

 にっと笑った伊藤くんは、意気揚々と歩き出して、すぐに立ち止まった。そして振り向いて、僕を睨む。今度は一体何にイラついているんだろう。僕は首を傾げた。

「教室って、どこの教室だよ。お前何クラス」
「あ、そうだよね。Bだよ」
「……B?」

 伊藤くんはぱちりと目を瞬かせる。そして、じっと僕を見つめる。物凄くというわけではないが、整った顔立ちの伊藤くんに見つめられ、どきりとする。僕が美形慣れしていないというのもあるけど、男の僕でこれなら、女の子は一瞬で恋に落ちちゃうんじゃないだろうか。…まあ、性格に難ありだけど。こういうのが好きって子もいるだろう。
 動かない伊藤くんに我慢ができなくなって、名前を呼ぶ。は、と我に返った伊藤くんは、へらりと笑って、行こうかとのんびり言った。結局何だったのかと不思議に思いながら、僕は頷いた。











 伊藤くんは躊躇なく教室のドアを開けた。クラスメイトの視線は一斉にこっちに向けられる。立っているのが伊藤くんだと気づくと、一瞬で顔を逸らしてしまった。あ。僕はちらりと伊藤くんの様子を窺う。眉を顰め、上がっていた口角は下がっていた。

「んだよ、感じわりーな!」

 びくりとクラスメイトの肩が震える。それにまた苛立ったらしく、大きな舌打ちをした。そして僕に本を押し付ける。え、と声を漏らす僕に、刺々しい声で告げた。「もういいだろ。俺帰るから」

「あ、うん…。ありがとう」

 背を向けた伊藤くんは立ち止まった。そして振り返らずに、そのまま去っていく。

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