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 どうやら何も気づいていないらしい男に、俺は蟀谷を押さえる。

「お前、周りを良く見ろ…」

 呆れた表情で見て、訝しげな表情で周りを見渡す。女性からは黄色い声が、男からは嫉妬の声が。…って、おいおい、女性よ。彼氏か、彼氏未満かの横でそんな声を上げるんではない。黙って周りを眺めた男は俺に視線を戻すと、顰め面を作った。

「女が一杯いるな、ここ」
「そこじゃねえええ、いやそれもあるけどもおおお」

 男は見当違いなことを言う。俺は両手で顔を覆うと、頭をぶんぶんと何度も横に振った。

「お前、頭でもイカれたか。おっと悪いな、訂正する。元々イカれてたのがより酷くなったな」
「いや訂正しなくていいから、それ!」

 ニヤリとあくどい顔になると、男は歩き出す。俺もここに突っ立っている分けに行かないので(視線も痛いことだし)、付いて行く。
 それにしても、女が沢山いると言って顔を顰めたと言うことは、こいつは、女には興味ないのか。ウェーズリー抜きにして。それとも、ウェーズリーが好きだから興味がなくなった? どうでもいいことか、これは。

「帰るのか?」
「はあ? 馬鹿か」

 男が鼻で笑い、見下したような目をする。こいつ、殴りたい。ふうううう、と長い息を吐き、怒りを静めた。男は余計に馬鹿にした表情で俺を見た。

「じゃあ、どこに行くんだよ」
「黙っとけ」

 よし、今日の夕飯はこいつの嫌いなトマトをふんだんに使ってやろう。そうしよう。







 着いた場所は、シルバーアクセサリー店だった。俺は自分で言うのもなんだが、割とお洒落さんで、アクセサリーとか好きだ。雑誌も結構買ったり立ち読みしたりする。もしかして、俺が好きなのを知ってここに…? あらやだ、きゅんときちゃうじゃないの…とはならないけども。

「ほら、好きなものを選べ」
「えっ、もしかして買ってくれるのか」
「日頃の礼だ」
「まじかよ。どれどれ……って高! 桁が違うんですけど!」
「ああ? それはこの店で一番安い奴だぞ」

 う、嘘だ…。店で一番安い商品が云十万だなんて信じたくない事実だ。はっ、と俺はあることに気づく。ウェーズリーは金持ちの坊ちゃんで、取り巻きも殆どが金持ちだ。というか金持ちのみか? 貧乏か、平凡な奴なんてウェーズリーは取り巻きにしないだろう。最も、こいつは取り巻きというより道具だが。
 まあ、と、いうことはだ。この男も金持ちなのか。うわー…顔も良くて金持ちなんて腹立つわー…。性格は…何も言うまい。
 俺はじとりと男を睨む。ここに連れてきたのは、自慢の為か? 『俺金持ちだぜふふん、どやぁ』アピールか? 可笑しいと思ったよ、無俺に買ってくれるだなんて!

「こんな高い物要らない!」

 そう言いながらも、視線はある一つの物に固定されていた。それは一番いいな、と思ったネックレスだけれど、言わずもがな、高い。惜しいな、と思いながら視線を外し、男が何か言う前に店を飛び出す。このままこの場所にいたら、余計にあのネックレスが欲しくなる。

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