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「俺のこと馬鹿にしてんのかよ!?」
「ひ、し、してな――」

 あ。
 僕は、図書室から借りてきた本を抱えたまま立ち止まる。外で何やらぎゃあぎゃあと騒いでいる人がいると思ったら、あれは佐藤……いや、伊藤くんではないか。初めてこんなに近くで見たけど、ホストみたいにチャラチャラしていて、失礼だが同い年には見えない。
 しかし困った。そこに居られたら、僕は出ることができない。本は重たいし、早く出たい。僕は少し迷って、声をかけた。「あの」

「ああ!? ……、っ」

 ぎろりと睨んだその瞳が、一瞬だけ見開かれる。それはすぐに普通に戻り、へらりと笑った。先程の怒りオーラは消えたけれど、笑顔で胸倉を掴んでいる姿も中々怖い。

「なーに? 俺、今取り込み中なんだけどぉ」
「あ、ごめん。そこ退いてもらったらすぐに去るよ」

 胸倉を掴まれた男が涙目でこっちを見た。助けを求められているのは分かるけど、僕にはどうしようもない。面白そうに目を細めた伊藤くんの手から力が抜けたのか、男は手を振り解いて走り去っていく。それをちらりと一瞥して、伊藤くんは肩を竦めた。

「あーあ、逃げちゃったじゃん。お前のせいなんだけど、分かってる? おい」

 僕の目の前に立ち塞がる伊藤くん。声のトーンは、少しずつ下がっていった。僕は素直にごめんと謝った。

「ま、別にいいけどぉ。…それ、重そうだねえ。手伝ってあげる」
「え、いいよ」
「は? 俺が手伝うっつってんだよ。大人しく手伝われてろ」

 無理矢理僕から本を数冊奪った伊藤くんが舌打ちをする。何だか良く分からないが手伝ってくれるらしい。

「ありがとう」
「いーえ」

 伊藤くんはにこにこと笑う。怒ったかと思ったら、すぐに笑顔に戻る。なるほど、中々面倒な人だ。でも、嫌いじゃない。僕は、軽くなった本を抱えなおして、ふふ、と笑った。

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