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「……お前と、だよ」
「え、俺?」
「い、いつも世話になってるから、その礼だ」

 先程よりも驚いて、俺はまじまじと男を見る。居心地悪そうに髪を掻き混ぜた奴は、再度言う。「で、どうなんだ」声はいつもの倍小さい。
 何か悪いものでも食べたかと思うほど普段と様子と言動が違う。男は催促を含んだ視線を俺に向ける。

「え、…と。別に、いいけど」
「あー…じゃあ、行くぞ」

 もう出掛けれるか、と訊かれて頷く。雑誌を閉じてテーブルの上に置くと立ち上がる。
 そういえば、いつからだろうか? 雀卵斑と呼ばれていないのは。暫くウェーズリー自慢も聞いていないな。相変わらずウェーズリーの奴は俺に嫌がらせをしてくるけれど。……そして、これも嫌がらせの一環だよな。そう思うと、ほんの少しだけ胸が痛んだ。あー…情でもって移ったか?
 それにしてもどこに行くんだろうか。そんな俺の心を読んだように、ぶっきら棒に男が言う。

「何も言わず付いて来い」

 うん、……俺様なところはいつも通りだな。













 電車に乗り継いで約三十分。駅から歩くこと五分で、目的の場所に着いたらしい。男の足が止まり、俺もそれに倣った。

「……あれ、ここって」

 桜並木の整備された道。桜並木を抜けると青々とした空に輝く太陽。加えて綺麗で広大な海。凄く落ち着いた雰囲気で、心が洗われるようだ。
 そして、先程の雑誌で見ていたデートスポットの一つなんだけど、ここ。なんてタイムリーな。ていうか男二人で来るとは、なんと言うか寒いぞ…。できればエリィと来たいよなあ。

「なんでここに?」
「お前がさっき熱心に見てたから…」

 成程。単に俺がここに行きたいと思って、デートスポットとか考えずに連れて来たわけね。ん? 何でここの行き方知ってるんだよ。不思議に思ったが、別に態々訊くこともないかなと思い、桜を見上げた。丁度満開で、ちらほらと風に乗って花弁が舞う。
 綺麗だな、と思いはする。するんだけど……。周りにカップルしかいない件には突っ込まずにはいられない! 凄いジロジロ見て来るんだけど! あら、あの二人ってそっちなの…? ああ、みたいだな…。みたいな! いや、こいつはいいよ、ウェーズリーのこと好きだしさ。俺は違うから! 女の子だけが恋愛対象ですから!
 顔を引き攣らせると、む、と不満そうな顔になる男。

「何だよ、気に入らなかったのか」

 いや、気に入る気に入らない以前の問題ですから。

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