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 屋上の重々しい扉を開くと、一人の男がいた。そいつを見た瞬間やっぱり来るんじゃなかったという気持ちと帰りたいという気持ちになった。

「…田中」

 咲の体にいた時のように呼ばれ、心臓が跳ねる。くそ、なんだっていうんだ。つーか、元希、あいつ覚えていやがれ。してやったり顔の元希が頭に浮かび、舌打ちする。原西が少しびくりと体を震わせて、あの時とは違うんだということを改めて感じた。

「おい、田中なんだろ」

 俺が怖くないのかよ。俺は思わずそう言いそうになっていた。怖くないのかって、訊くのは恥ずかしかった。怖いと言われるのが少し怖かった。

「…俺は確かに田中龍太郎だが」
「そ、そうじゃなくて…咲の体に入ってたの、お前なんだろ」
「言ってることが分かんねえな。日本語喋ってくんねえ?」

 にやりと笑うと、原西が苛立ったように俺を睨んだ。ボロを出さないうちに帰ってしまおうと踵を返すと、慌てたような原西の声。

「お前が可愛い物好きって、ばらすぞ!」

 瞬間。俺は勢いよく振り返った。なんて奴だこいつ! これ脅しだろ!
 そう思いながら、嬉しいような、切ないような気持ちになった。俺を引き留めてくれた。でも、俺が咲の体に入っていた奴だと知りたいのは、俺のことを殴りたいからだ。――こいつが好きなのは咲で、好きな女の体を好き勝手していた俺は憎い奴。

「……くそ」

 何だよこれ。俺は堪らなくなってその場にしゃがんで髪をぐしゃぐしゃにした。

『仲良くなりたそうな顔してるよ』
『素直じゃないねえ』

 元希のからかいを含んだ言葉が脳内で再生される。

「お、おい、どうしたんだ」

 原西が近づいて来た。俺は必然的に原西を見上げる形になる。原西の顔が一瞬見開いて、何故かほんのり顔を染めた。

「殴れよ」
「……は?」
「お前、俺のこと殴りたかったんだろ」

 なんだそれとでも言いそうな顔をしていた原西は、ハッとした。忘れてたのか、こいつ? いやまさかな。

「田中太郎だってこと、認めるんだな」
「ばらされちゃたまんねえからな」
「う…。あ、つーか、殴らねえよ」

 え? 殴らないと言われてぽかんとしていると、原西が笑った。咲に向けていたあの笑顔だ。え。処理が追いつかない。

「その代わり、俺と…と、友達になってほしい」
「とっ友達!?」

 驚きすぎて声が裏返った。照れたように頬を掻く原西は、小さく頷く。友達になってほしいなんて言われたの、初めてだ。元希はいつの間にか近くにいたし、ほかの奴らは近づいてこなかったし。何より俺が驚いたのは、原西がそう思ってくれているということだ。
 どうして俺なんかと…?

「おい、どうなんだよ龍太郎」

 そう言いながら、手を差し伸べる原西。俺はくすぐったい気持ちを持て余しながら笑みを浮かべて、その手を取った。

「龍太郎先輩だろ、学」










fin.


友情寄りになってしまった!ということで続編ではありませんが、番外編的なもので補完しようかなーと。会話文になるか普通の小説か分かりません。もしかしたら拍手お礼文になるかも…?
まだ未定です。でもネタは考えてるのでちゃんと書きます。出番が物凄く少なかった彼らも出す予定です!でもこれはあくまでも予定です。


以下、登場人物紹介。

田中 龍太郎(たなか りゅうたろう)

周りから恐れられている不良。
でも中身は普通。最近友達が増えた。

原西 学(はらにし まなぶ)

龍太郎が可愛く見える時があってちょっと混乱してる。
咲に生暖かい目で見られている。

倉本 咲(くらもと さき)

原西と龍太郎が友達になったことで、必然と話すことが増えた。
虐めはなくなり、記憶が戻ったと友人たちに打ち明けた。
二人の関係をもどかしく感じている。

藤山 元希(ふじやま もとき)

龍太郎の親友。
最近ちょっと二人の関係に嫉妬している。
でも龍太郎が幸せなので良かったとも感じてる。

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