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ふざけた想像をしているうちに田中龍太郎たちは校舎に入ってしまったようだ。俺は窓から視線を外す。……うし、もう一度咲に訊いてみよう。
「なあ…咲」
本を読んでいた咲は俺の言葉に顔を上げる。無言で続きを促してきたので、俺は首に手を遣りながら口を開いた。
「…なんか、ヒントくれねえ?」
咲は困ったような顔をした。何の脈絡もなかったが、何のことを言っているのか分かったようだ。
「…でも」
「年齢とか、学校とかだけでもいいんだ。頼む、咲」
「学くんは、あの人のことを知ってどうするの?」
知ってどうするか…。俺は咲に言われたことを口の中で復唱して、考える。
「分かんねえ」
「え?」
「分かんねえから、会って確かめたいんだ」
会ったら、分かる気がする。この喪失感とか、モヤモヤとか、いろいろ。じっと咲を見つめる。困らせていることは分かってるけど、でも、どうしても知りたいんだ。俺の強い気持ちが伝わったのか、咲が折れた。
「あの人は、三年生だよ。この学校のね」
「っ!」
この学校の三年生。手に入れた情報に嬉しくなって咲の手をぎゅっと握る。目を丸くした咲に、笑いかけた。
「サンキュ! 咲!」
「うん…」
咲は少し申し訳なさそうだった。田中に罪悪感を覚えているのだろうか。この学校。三年。この情報は大きい。この学校だったら…そうだ、先生に訊いてみよう。まず、田中太郎という奴がいるか。いなかったら、最近ずっと学校に来ていなかった奴を調べる。咲は学校に行くなと言われていたみたいだから。
「昼休みに行ってみるか…」
ぼそりと決意を声に出して、俺は次の授業の教科書を取り出す。早く昼休みが来ないかと時計を見た。
昼飯を急いで食べて、咲に会沢たちに注意をするように言って、俺は職員室に向かった。職員室のドアの横でスマホを弄っている優男に目が行く。…どこかで見た顔だと思ったら、田中龍太郎の隣にいた奴だ。じっと見ていたからか、近づいていったからか、優男は顔を上げた。一瞬だけ何かに驚いたような顔をしたが。すぐに視線はスマホへ戻った。俺は特に気にせず、職員室のドアを開ける。
「失礼します」
しかし、教師はこっちを向かなかった。ていうか、静かすぎ。教師たちの視線を辿って、理由が分かった。
「田中龍太郎…」
ぽつりと呟く。決して大きな声ではなかった。でも、田中龍太郎は呟かれた名前に反応してこっちを見る。そして、目を見開いた。
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