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 しかし、自分のことをあんなに話したがらなかった奴が、こうもあっさり…。訊いたら、ほかのことも教えてくれるんだろうか。後で訊いてみよう。
 店員を呼んでコーヒーとくまさんパフェを頼んで、やたら機嫌の良さそうな田中を見つめながらぼんやりと考える。咲は今どうしているんだろうか…。咲には俺みたいに、入れ替わったことを知っている奴がそばにいるだろうか…? 田中は友達が多いタイプじゃなさそうだ。どっちかというと敵の方が多そう。なんとかして連絡取りてえなあ…。つうか、こいつ、自分の体が心配じゃないのか? 俺だったら心配だ――待てよ。ということは、何らかの形で自分の体の安否を確認したんじゃないか? だからこんなに平然としていられるんだ。
 その時、パフェが運ばれてきた。俺のコーヒーは頼んで少ししてから来たから、もうすでに半分以上減っている。男二人で喫茶店に入って、一人はパフェ。なんとも言い難い光景だが、今田中は咲の姿だ。周りからは高校生カップルの放課後デートみたいに見られているだろう。俺は熊の絵が描いてある容器や可愛らしい飾りで盛られたパフェをキラキラした目でみつめる田中から目を逸らす。可愛すぎんだろ…。ハッとして慌てて咲だからだと言い聞かせるようした。

「…すっげえ、可愛い…」

 くっそ! やめろその顔!

「お、お前、そういうの好きなのかよ?」
「あ? ああ、可愛い物は好きだな。俺、こういう所に入って堂々と食べたことねえから、今すげえ嬉しい」

 いつもあんなに口が悪くて態度悪いのに何でこんなに素直なんだよ…! てっきりお前に関係ねえだろと突っ撥ねられるだろうと思っていた俺は、胸を締め付けられるような感覚に、両手で顔を覆った。

「……どうした?」
「うるせえ話しかけんな黙って食べてろ」

 はあ? と怪訝そうな声が聞こえたが、それ以上何も訊いてこなかった。それはそれでなんかちょっとあっさりしすぎだろと顔を覆っていた手を下ろすと、奴はパフェに夢中だった。

「おっ、お前、彼女とかいるのか?」

 朝気になったことを訊いてみた。もぐもぐと咀嚼し終わった田中は片眉を上げて俺を見る。

「…そんなこと訊いても、俺は特定できねえぞ?」
「そ、そういうつもりで訊いたわけじゃねえよ」
「じゃあどういうつもりだ?」

 じろりと睨まれて、うっと言葉に詰まる。どういうつもり…って、どういうつもりなんだろう、俺。ただこいつのことが知りたいって、思って……。

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