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 飼ってくれるという人を見つけるのに、さほど時間はかからなかった。優しそうな老夫婦だったし、昔犬を飼ったことがあるということで、俺たちは安心して老夫婦に犬を手渡した。
 帰り道、田中はどこかに寄らないかと言ってきた。そんなこと言うとは思っていなかった俺は硬直する。

「…なんで?」
「まあ、付き合ってくれた礼っつか…」
「礼って、その金咲のだろ」
「いいじゃねえか、ちょっとくらい。心配しなくても、ちゃんと返す」
「ああ…え、マジで?」

 意外に律儀な男だ。そのままパクりそうなのに。俺の顔に腹が立ったのか、不愉快そうな顔をして腕を組んだ。咲の格好でそれはやめてほしい。今更だけど。

「で、どうすんだよ。別にいいんだぜ、行かなくても」
「あ? ……まあ、行ってやらなくもねえぞ」
「……じゃあ行かねえ」
「おい! 嘘だって! 行こうぜ」

 本当に帰りそうだったので慌てて引き留める。そうして俺たちは近くの喫茶店へと向かった。











 喫茶店へ入ると、バイトの女が頬を染めて俺を見た。その反応には慣れているので、もう気にならない。適当な席に座ると、メニューを取った。

「お前何にすんの」
「見せて」
「お、おお」

 ずいっと顔を近づけてきてどきっとする。咲だから咲だからと呪文のように唱えて、平静を保ちながらメニューに目を落とす。咲とは違う匂いがふわりと香って、少しだけ動揺する。
 …喫茶店に来たはいいけど、こいつ、甘い物嫌いそうだな…。なんとなく、イメージと違う。辛い物とかは好きそうだな。俺も甘い物は好んで食べないから、飲み物のページへと持っていこうとしたが、じっとパフェのページを見ている田中。その顔は真剣だった。……え、マジ?
 なんだなんだ。こいつイメージと全然違うんだけど。俺は仕方なくパフェのページを見つめる。こいつは何を迷ってるんだろう。ここは女向けだからか、可愛い装飾の乗ったものが多いようだ。チョコとかイチゴの定番パフェ、旬のパフェ、そして可愛らしいパフェ。名前は…。

「くまさんパフェ」

 そう、くまさんパフェ……。えっ?

「……えっ」
「何だよ」
「い、いや…、なんつーの、えらく可愛らしいもん頼むじゃねえか」

 田中はだからなんだよと言った顔でこっちを見る。……えーと。犬が好きで、甘い物も好きで、可愛い物も好き…なのか、こいつ。

「意外だ…」
「まあな、よく言われる」

 俺が思わず零した言葉を拾って、どうでも良さそうに呟いた田中は早くしろとばかりに机を爪で叩いた。

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