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「なんだそいつは」
「咲にちょっかいかける男だよ」
吐き捨てるように言う。俺は呆れた顔で肩を竦めた。
「恋敵って奴か」
「…ちげーよ」
恋敵と認めたくないだけかと思ったが、奴の顔はそんな風に見えなかった。俺はそれじゃあなんだと考える。ちょっかいをかけるっていうのが恋愛感情じゃないとすると、…まあ、咲で遊ぶとか、そういうことだろう。
「なるほどな。ちなみに咲はそいつのことどう思ってたんだ?」
「あいつ、咲の前では猫被ってたからな。咲は良い奴だと思ってたんじゃねえの」
ふうん。猫被ってても気付きそうなもんだけどな。咲は鈍かったのかもしれない。或いは、気付いていたけど、って感じか。前読んだ少女漫画の主人公は、自分が遊ばれてるって分かってても、知らないふりをしていたな。あの漫画はどういう終わり方をしていたっけ…。
「おい、なにぼーっとしてんだ」
「あ? あー、いや…。要注意人物はそれだけか?」
「ああ、まあ…」
「じゃあ俺は帰る」
立ち上がると、原西が下からこっちを睨んだ。そのまま立ち上がりそうな原西を見て、俺は鼻を鳴らす。
「家には行かねえよ」
「俺がテメェの言うこと信じると思うか?」
「思ってねえよ。…つーか、なんでそんなに俺のこと知りてえんだよ。キメェ」
「ああ!? 俺はただ体が戻った時にテメェを一発殴りてぇだけだ!」
咲の体に入った罪は重いと怒っている原西。まあ、そんなことだろうと思ったけど。俺が一番近づいちゃいけない男である田中龍太郎だって分かったら、こいつはどうするだろう。少し気になったが、明かすつもりはない。
「俺を見つけられたら、殴るでもなんでも好きにしろよ」
できたら、だけどな。俺はにやりと笑うと、原西に背を向けた。
「…ぜってー見つけてやる」
「ハイハイ」
俺はひらりと手を振って、そのまま原西の部屋を後にした。相変わらず家は、がらんとしていた。
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