「んな話はいいから、学校のこと教えてくれよ」
「…記憶喪失って周りは知ってんだから、俺が教えなくても…」

　俺は自分の考えを述べる。中心人物、近づかない方がいい人物が知りたいのだと。そうすると、原西は納得がいったような顔で頷いた。

「一番近づいちゃいけねえのは、あいつだ」
「あいつ？」

　原西が真剣な顔をするので、俺も原西を見つめた。恐る恐る原西が告げた名前は――。

「田中龍太郎だ」

　……ああ、俺ね。あからさまにがっかりした顔をしたからか、原西は不満そうに顔を顰めた。

「なんだよ。テメェもあの男のこと知ってんだろ？　……まさか、知らねえのか？」
「いや、知ってる。有名だからな」

　有名でも嬉しくないが。というか俺の話はいいんだよ。同級生の話をして欲しかったんだよ、俺は。ていうか知ってんだろ？　って。知ってると思ってるなら言うなよ。

「咲はあの男とは関係ないだろ？　咲に害を与えそうな奴らの話をしろっつってんだよ」
「はいはい、分かったよ。…咲のこと一番目の敵にしてたのは、同じクラスの会沢知恵だな」
「会沢知恵ね…。どんな奴だ？」
「…ぶりっ子」

　顔を憎々しげに顰めた原西は、その取り巻きにも気を付けろと言った。…なるほどね。そういう女は、俺のクラスにもいたな。名前は知らねえけど、あのウザったい顔と声は覚えている。
　絡んで来たら脅してやってもいいが、流石に女にそういう真似をするのはポリシーに反する。ムカつくが手は出さないようにしよう。

「あとは？」
「あとは…高村哲也」
「あ？　男？」

　てっきり女の名前が挙げられるだろうと思っていた俺は、明らかに男の名前のそれに片眉を上げた。


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