13

 どさりと床に押し倒され、体ががちがちになる。ゆっくりと顔が近づいてきて――俺は慌てて手で悪魔の顔を押さえた。

「ぶ」

 手を退かされ、冷たい目で見下ろされる。ひい、と内心ビビりながら口を開いた。

「お、お前、彼女、どうするんだ」
「あ? ああ」

 そういえば、そんなのいたな。そう言いそうな顔で宙を眺めてから、体を起こす。そしてポケットから何かを取り出した。スマホだ。
 ……まさか。嫌な予感がして、俺も体を起こした。

「別れる」

 ブチっ。彼女の声は聞こえないが、おそらく今動揺しているか、泣いているかだろう。普通、直接言うだろう。あと、言い方にも問題がある。なんだ別れるって。理由とかもなし? 悪魔らしいと言えばらしい、けど…。

「別れたぞ」
「……う、うん。聞いてた、けど…彼女はなんて?」
「さあ?」

 さあって。俺は彼女に同情した。

「…彼女のこと、好きだったんだよな?」

 興味のない奴だったら付き合ってないと思うから、少しだけでも好意はあったはず。緊張しながら訊ねると、悪魔は無言で俺の体に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。

「な、なにっ…!?」

 腹に回った手。心臓が煩く鳴り始めた。ふ、と笑った息が首にかかってぞわりとした。

「あの女の反応が気に入った。だから好きだと思ってたけど、お前と反応が似てたからだ
ったっぽい」

 な、なんだそれ。先ほどから嬉しいこと続きで、少し怖くなってくる。本当に信用していいんだよなと思っていたら、服の中に手が入ってきた。

「おおおおおおおま、何やって! ひ、く、くすぐったっ」
「何って、ナニ?」

 それはにやにやとしているのが分かる声音で。俺はばたばたと暴れたが、悪魔の力に適うはずもなく。そして、俺の抵抗が更に奴を興奮させたらしく。その時俺は、肉食動物に食われる小動物の気分になったのだった。

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