▼ 13
どさりと床に押し倒され、体ががちがちになる。ゆっくりと顔が近づいてきて――俺は慌てて手で悪魔の顔を押さえた。
「ぶ」
手を退かされ、冷たい目で見下ろされる。ひい、と内心ビビりながら口を開いた。
「お、お前、彼女、どうするんだ」
「あ? ああ」
そういえば、そんなのいたな。そう言いそうな顔で宙を眺めてから、体を起こす。そしてポケットから何かを取り出した。スマホだ。
……まさか。嫌な予感がして、俺も体を起こした。
「別れる」
ブチっ。彼女の声は聞こえないが、おそらく今動揺しているか、泣いているかだろう。普通、直接言うだろう。あと、言い方にも問題がある。なんだ別れるって。理由とかもなし? 悪魔らしいと言えばらしい、けど…。
「別れたぞ」
「……う、うん。聞いてた、けど…彼女はなんて?」
「さあ?」
さあって。俺は彼女に同情した。
「…彼女のこと、好きだったんだよな?」
興味のない奴だったら付き合ってないと思うから、少しだけでも好意はあったはず。緊張しながら訊ねると、悪魔は無言で俺の体に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
「な、なにっ…!?」
腹に回った手。心臓が煩く鳴り始めた。ふ、と笑った息が首にかかってぞわりとした。
「あの女の反応が気に入った。だから好きだと思ってたけど、お前と反応が似てたからだ
ったっぽい」
な、なんだそれ。先ほどから嬉しいこと続きで、少し怖くなってくる。本当に信用していいんだよなと思っていたら、服の中に手が入ってきた。
「おおおおおおおま、何やって! ひ、く、くすぐったっ」
「何って、ナニ?」
それはにやにやとしているのが分かる声音で。俺はばたばたと暴れたが、悪魔の力に適うはずもなく。そして、俺の抵抗が更に奴を興奮させたらしく。その時俺は、肉食動物に食われる小動物の気分になったのだった。
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