12

 最悪だ。

「おい、無視するなよ」

 なんとか悪魔に捕まらず家に着いたが、隣の家なので意味がなかった。俺の家族とも顔見知りなので、家族はすんなりと家に入れてしまった。

「おいって」
「何しに来たんだよ…」

 ず、と鼻水を啜る音が部屋に響く。勿論俺のものだ。布団で丸まっているから奴の顔は見えないが、苛立っていることは伝わった。
 俺を笑いにきたのだろうか。気持ち悪いとわざわざ言いに来たのだろうか。悪魔ならあり得ることだけに、怖い。

「こっち向けよ」
「……いやだ」
「向けって言ってんの」

 低くなった声に、びくりと体が震える。俺は恐る恐る顔を出した。ばちりと目が合う。悪魔は一瞬きょとんとして、ぶはっと吹き出した。

「ひでー顔してんね」
「っな」

 だ、誰のせいだと。

「なー、そこから出てこっち来いよ」

 ここで抵抗したって、無駄だろう。というか引きずり出される可能性が高い。俺は諦めてベッドから下りた。

「徹、お前、ホモなの?」
「……違う」
「ふーん、じゃあ、俺だから?」

 にやりと悪魔の顔がいやらしいものに変わる。それにドキリとしながら、小さく頷いた。

「分かったなら、もう帰れよ…」
「は? 何で帰んなきゃなんねえんだよ」
「だって、お前…キモイって言ってたじゃないか」
「あー? ああ」

 悪魔は一瞬眉を顰めて、俺の後頭部をがしっと掴んだ。え、と思った瞬間には何かが唇に触れていて、可愛らしい音と共に離れて行った。俺がぽかんと口を開けたまま悪魔を見ると、悪魔は見せつけるようにぺろりと唇を舐めた。

「じゃ、付き合うか」
「……は!? ちょちょちょ、ちょっと待って!」
「んだよ。何か文句ある?」
「文句っていうか……」

 さっきキモイって言ったの認めたのに。ていうかお前彼女いるだろ。

「あの金髪とべたべたしてんのムカついたし、ベンチで女と楽しそうに話してたのも嫌だった。玩具取られてムカついただけかなーって思ってたけどさあ、今キスして何か嬉しかったし」
「え…は、じゃあ、何、お前、俺のこと好き…なの?」
「これが好きって気持ちなら、そうなんじゃねえの?」

 え、え、ほんとに? 上げて落とす作戦じゃなくて? 本当に…俺のこと?
 顔に熱が集まって、さっと逸らすが、すぐに顔を固定されて悪魔の方を向かされた。

「お前が、俺をねえ」

 にやあっと笑う悪魔。とても機嫌が良さそうで、俺は更に赤くなった。

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