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「ごめ――」
「俺ら、手を繋ぐくらい仲良いんだよね。それくらい許してくんねえ?」

 悪魔を怒らしてはいけない。俺は即座に謝ろうとしたが、平島がそれを遮った。俺は一瞬平島の奴が何を言っているのか理解できなかった。それは悪魔と彼女も同じらしい。こんなこと言って彼女に引かれないのかと心配する……よりも、俺は自分の身を心配していた。謝れなかった。それどころか、平島の余計なひと言で、俺のことを気持ち悪いと思ってしまったかもしれない。

「…なにそれ」

 そして何故か恐ろしい顔で俺に訊ねてくる悪魔。俺じゃなくて平島に訊いてくれと言いたい。

「だから、仲が――」
「お前、さっきからなんだよ。お前に訊いてないんだけど」
「だって怖がってるじゃない。俺はこんな顔より、笑顔が見たいんだよね」

 平島は肩を竦めて、にっと笑った。なんとかして悪魔に嫉妬させようとしているのかもしれないが、悪魔は恋人でもないような奴に嫉妬なんてするような男じゃないと思うし、俺の笑顔が見たいとも思っていないだろう。嫌がる顔が大好きな奴なんだから。

「…平島」
「ん? なあに」
「いい加減、動こう」
「ああ、そうだね」

 注目されるのにうんざりしてそう言うと、平島は周りをちらりと見て、頷いた。

「ッチ」

 悪魔は心底不愉快ですと言わんばかりの顔で舌打ちした。隣の彼女の肩がびくりと震える。かわいそうだ。そう思いながら、俺はざまあみろとも思っていた。












「よし、これにしよう」

 俺は青ざめながら上を向いた。耳を劈くような悲鳴の聞こえるそれは、フリーフォールと呼ばれるアトラクションである。


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