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 待ち合わせの場所に行くと、既に平島が立っていた。柱に背を預けながらスマホを弄っているそいつは、注目を浴びている。あそこに行きたくない。王子様みたいだと近くにいた女が呟いた。確かにどこかの国の王子みたいだ。女たちは平島の相手はどんな人かと想像していることだろう。イケメンの友達はイケメンと期待をしているかもしれない。残念ながら、冴えない男だ。しかもこれからこのアンバランスな組み合わせの二人がデートをするのだ。キャアキャアと甲高い声を上げて平島を見つめる女どもは、そんなこと予想だにしていないだろう。
 そんなことを考えていると、平島が顔を上げた。そして視線がバチリと合う。なんだ、来ていたんじゃないとでも思ってそうな顔で、俺を見た。仕方ないので平島に近づくと、女どもがあきらかに残念そうな声を上げた。俺は別に、悪いことはしていない。勝手に妄想していたお前らが悪いんだ。女どもに喧嘩を売っても仕方ないので、その言葉を飲み込んだ。平島は顎に手を当てて俺をじろじろと見る。そして満足げに笑った。

「ああ、うん、うん。いいね。なかなか似合ってるじゃない」

 じゃあ行こうかと手慣れた動作で俺の腰に手を回す。俺はぎょっとして平島から距離を取った。俺の動揺を見て、楽しげに笑う男。腹が立って睨みつけると、平島は肩を竦めた。「やだな、ちょっとした悪戯じゃないの」こんな公共の場でこんな質の悪い悪戯をするんじゃない。俺は促すように平島の腕を叩いて、歩き出した。













 遊園地の入り口。
 悪魔たちはすぐに見つかった。顔が異様に整っている悪魔に、美少女に分類される女。目立たないわけがない。こちらも王子様面をした嫌味な男はいるが、隣にいるのがこんな男――自分で言うのも切ないが――のため、彼らよりは目立っていない。

「それで、どこらへんで悪魔たちと”ばったり”会うの」
「そうだねえ、まあ早い方がいいんじゃない。一つ目のアトラクションにあいつらが乗って、俺たちはそれを待ち伏せる」
「出入口で張るって? それはちょっと、偶然というのは厳しくないか」
「そうでもないでしょ。俺たちもそこから出たばかりってことにすればいい。向こうには分からないさ」

 「そうかねえ」そう言われれば、そういう気もする。俺たちは悪魔たちから目を離さないようにしながら、人の波をくぐり抜けた。奴らが並んだ最初のアトラクションは、…。

「ジェットコースターか。まあ、定番だよね」

 悪魔はああいう絶叫系を好む。俺の悲鳴を聞いて、笑っていたなあと嫌なものを思い出した。

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