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(side:王道)


 ああ、堪らない。どこまでも俺好みだ。もう我慢ならないといった表情と、可愛らしい暴言に、うっとりとする。実は、孝太を工事と間違え続けているのは態とだ。間違える度…っていうか、絡む度、歪む顔に堪らなく快感を覚える。孝太に会って、俺はSなのだ、と自分の性癖に気づいた。ま、あいつ限定なんだけどな。チラリと横を見ると、孝太を前にしてしか見せない笑みで、食堂の入り口を見ていた。俺はこいつが嫌いだ。同属嫌悪ってあるじゃん。そんな感じ。向こうだって俺が猫被ってるのに気付いてるだろうし、あいつを虐めたいという欲求も分かっているだろう。
 兎に角俺は、孝太を傷つける度にゾクゾクと快感の波が押し寄せてくるのを感じていた。しかし隣の男がどうやら、そろそろ動き出しそうだ。それならば、俺も参戦しなければならない。
 気持ち足早に出て行った弘太の背中を睨み付け、俺は嗤った。










(side:孝太)



 あああああ……どうしよう。廊下にしゃがみこみ頭を抱える。俺の命はもしかして明日で尽きるのだろうか。そうだよな。あの未確認生物の信者に殺され、あの駄犬の親衛隊にも殺される運命なんだ……。
 ジワリと滲む目の前。うわ、俺凄い格好悪い。せめて部屋に帰ってから泣こうかな…。もう今日サボろう…うん。

「おい」

 先程どころか最近よく耳にする低温が俺の耳に響いた。ビクリと肩が跳ね上がる。最悪だ…。明日といわず今日のうちに俺は死ぬのか。

「おい孝太」

 でも死にたくない死にたくない死にたくな――って、え?
 俺は驚いて振り返る。見上げると、そこには少し顔を赤くした、不機嫌顔の駄犬がいた。
 ん? あ、あれ? 今、確かに俺に向けて"孝太"って…。
 戸惑いを含んだ視線で見つめると、俺から目を逸らして、頭をガシガシと乱暴に掻いた。

「あー…くそ、なんつーか」
「っははははははは、はい!」
「吃りすぎだっての。ま、単刀直入に言うけど」
「は、はい」
「俺、お前の泣き顔超好み」
「は、はい…――は?」
「あ、その顔最高」

 は?
 どどどどどういうことなの!?

「ギタギタに傷付けて、最後に溶けるくらい甘やかしてぇ」
「いや、あの、え?」
「あー、その意見には賛成だけどよ、お前と一緒は嫌だわ」

 違う男の声がして、そっちを見れば、ニヤニヤと笑っている美形がいた。……え、誰?

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