10

 近づいてきた男は俺を見下ろす。

「…っな、なんだよ」
「誰だ」
「だ、だからお前には関係――」
「気になんだよ」
「……は?」

 気になる?
 言われたことを理解できず、ぽかんと口を開けて男を見上げる。どうして――と思ったところでハッとする。そうか、俺を懐柔しようって魂胆だな。あのネックレスも…それだったら納得できる。食事を分けてくるのもだ。そして仲良くなった後、裏切ろうって、そういうことか。俺は胸が痛むのを感じて、眉を顰めた。こんな奴どうだっていいのに、どうして…。

「どうしても行くって言うなら、俺も行く」
「はっ? だ、駄目だ!」

 宮司を巻き込みたくない。俺は慌てて首を振った。

「じゃあ行かせねえ」

 どうしよう。俺は時計を見た。約束の時間を過ぎてしまっている。とりあえず遅れるということを連絡しないとと思っていると、タイミングよく携帯が鳴った。ディスプレイを見なくてもわかる。相手は宮司だ。
 じろじろと見てくる男を無視して電話に出ると、心配を含んだ声で宮司が俺の名を呼んだ。

「悪い、まだ時間かかりそうだ」
『…大丈夫か?』
「ああ、うん、全然」
『…そうか。待ってんぜ、ハニー』
「あいよダーリン」

 くすりと笑って電話を切る。男に向き直ると、更に機嫌が悪そうだった。

「…ダーリンてのはなんだ」
「……ダーリンはダーリンだろ」
「付き合ってんのか」

 何バカなことを言っているんだと呆れる。訂正してもじゃあどうしてダーリンって呼んでるみたいなことになりそうだから、俺は訂正せずに頷いた。
 ぎゅっと皺が寄る。男同士ってこと、別にこいつは気にしないだろう。こいつはウェーズリーを好きなんだから。

「……んだよ、それ」

 どうしてか男は傷ついているようだった。予想外の反応に俺は瞠目する。

「もういい、どこにでも行っちまえ」

 男は吐き捨てるように言って、ソファへと戻っていった。その背中になんだか哀愁を感じて、意味が分からなくなる。こいつの考えも、俺の気持ちも――良く分からなくなった。

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