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「痩せたな」

 ポツリと呟かれた声。俺はそっちを向く。燃えるように赤い髪を風に靡かせながら、厳つい顔の持ち主は更にそれを厳つくさせた。

「お前、食べてないだろう」

 ギクリと体が強張る。やばいと思った時には既に遅く、ぎらりと宮司は瞳を光らせて俺を睨む。

「な――にを言ってるんだ。今現在進行形で食べているだろう?」
「三食摂ってるか? 毎日?」
「や、毎日は…ほら、俺、金がないんだよ」

 本当だ。夕飯は毎日ではないが、ちゃんと食べている。最近では、あの男が自分の物を寄越してきたりもする。もともと俺の作った料理だからなんとも言えない気持ちになるんだが。

「金がなくても前はちゃんと食べてただろ…」

 宮司は俺の手首を掴んで顔を歪めた。その苦しそうな顔にずきりと胸が痛む。俺がこんな顔をさせているんだ。

「準…俺のところへ来いよ。あんな奴のために、お前がこんな風になるなんて、嫌なんだ」

 あんな奴…。宮司はあの男が原因だと気づいているようだ。

「宮司に迷惑がかかるし…それに、それだとウェーズリーに負けた気がするんだ。俺は大丈夫だ、だから」
「だから…お前が弱っていくのを見ていろって? ……いいじゃないか、負けたって。そうすりゃあのクソ野郎だって満足するだろう」
「宮司…」

 宮司は顔を歪める。そして俺を引き寄せると、腰に手を回した。抱きしめられている――俺は抵抗することなく、逞しい体に身を預ける。目を瞑って、俺は宮司にあることを提案した。













 男はソファで寛いでいた。相変わらず態度のでかい男だと思いながら、男に声をかける。

「夕飯は友達のところで食べることになったから」

 男は驚いたように目を開いて体を起こした。てっきり、ふうんの一言で終わると思ったのに。

「なんだって。お前は俺に一人寂しく食事しろと言うのか?」
「俺の顔なんか見たくないだろう? お前、言っていたじゃないか。汚い面をこっちに向けるなと」

 男は不満そうな顔で黙った。そんな顔をしたいのはこっちだ。どうして汚い面なんて自分で言わなくてはならないんだ。

「誰と――誰と、食うんだ」
「友達だって」
「その友達は誰だと訊いているんだよ」
「それは言わなければいけないことか?」

 どうしてこの男はそんなこと訊きたがる? ……もしかしたら宮司にまで被害が及ぶかもしれない。言わない方が良いか。
 そう思っていると、男が立ち上がった。眉間に皺を寄せて、――いつもより怖い顔をしている。まさか怒っているのかと思い、さあっと青くなった。

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