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 俺と一緒にいるせいで成績が落ちたのだと先生に言われた。チカちゃんはそう言った。周りの人から目をつけられ始めていたとも。元々色んな人から反感を買っていたから誰に嫌われようと構わないと思ってたらしいんだけど。心から信頼できる――ここでは俺を指す――友達ができて。怖くなったらしい。自分のせいで俺が悲しんだら、と。
 チカちゃんの両親はチカちゃんのことを可愛がって、好きなように生きて欲しいと思っていたみたいだ。でも父方のおばあさんは、チカちゃんのことを毛嫌いしていたらしい。真面目に生きろと。後悔しても知らないぞと。チカちゃんは俺が危険な目に遭いそうだと知ったとき初めて、おばあさんの言葉を思い出した。それで、俺から距離を取ろうとしたみたい。そこでちょうど転校という話が出ていたから。俺に何も言わず去ったのだ。チカちゃんは申し訳なさそうに言った。

「俺、あの時は本当に馬鹿だった。お前に一言言えばよかったのに」
「ショックだったよ。裏切られたって、思った」
「……悪かった。あと、嬉しかった」

 俺はえ、と声を零してチカちゃんを見る。チカちゃんが本当に嬉しそうに笑うから、心臓が脈打った。
 くそ、かっこいいわ、マジで。悔しいくらいに。

「楽しかったのに、って怒ってくれて。……俺も楽しかった。あの時が一番」
「一番、」
「ああ。俺、お前に見合う男になりたくて、頑張ったよ。お前は…思ったより垢抜けててびっくりしたけど」

 チカちゃんは苦笑する。俺の顔はじわじわと赤みを帯び出していた。

「でも、そんなお前も好きだ」
「すっ、好き、って」

 えっ! 好きって言った今!?
 赤い顔のままあわあわとしている俺を見てくすりと笑う。

「お前はそのつもりじゃなかったかもしれないけど、俺、本気で付き合ってたから。恋愛的な意味で、ちゃんとな」
「お、俺はそういう意味でだったか分かんないけど…でも、チカちゃんのことは、好きだった」
「好きだった? ……今は好きじゃないのか?」
「へ!?」
「俺は今でも好きだけど、お前は違う?」

 ちょ、ちょっとまって。え? 今でも好き、って…?
 意味を理解した瞬間、顔がかあっと更に熱くなる。チカちゃんは目を細めて、俺を見つめた。口角が上がって、意地悪そうな顔だ。

「その反応、期待してもいいのか?」

 俺は、チカちゃんが好きで。でもチカちゃんは俺に黙ってどっか行っちゃって。再会したと思ったら人が全く変わっていて。で、俺のことが好きだと言って。
 色んな考えが頭の中でぐるぐると廻って、俺は良く分からなくなってしまった。ただ分かるのは、チカちゃんのことはとっくに許しているということだった。

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