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「さぁちゃん、今日泊めてくんない?」
「いーけど」

 さぁちゃんは俺を一瞥して、すぐに頷いた。やったね! さすがさぁちゃんだ!

「なに、なんか嫌なことでもあった?」

 さぁちゃんは人形のように冷めた顔を少しだけ人間っぽく歪める。仲良くなった俺だけが気づく変化だと調子に乗るくらいには、さぁちゃんの変化は分かりにくい。

「いやぁ、ちょっとねえ」

 まさか元カレが家に来たんですなんて言えないし。はははと笑う俺を呆れたように見て、さぁちゃんはそれ以上訊いてこなかった。

「なんもないけど、まあ、上がりなよ」
「うん。お邪魔しまーす」

 靴を脱いで、ささっと上がる。相変わらず綺麗だ。インテリアとか興味ないらしいからかなりシンプルな部屋だけど、俺は気に入っている。落ち着くんだよねえ。

「マサ、お茶とオレンジどっちがいい?」
「オレンジで!」

 そう答えた時には、俺の目の前にオレンジがあった。俺は嬉しくなってさぁちゃんに笑いかけた。俺がオレンジジュース好きだから、いつも置いてあるんだよね。

「さぁちゃんありがとー」
「いいえ」

 さぁちゃんが小さく笑う。オレンジジュースを飲みながら、さぁちゃんもっと笑えばいいのになあと思った。
















「マサ、携帯煩いんだけど」
「わわっ、ごめん! 今とめるー」

 お風呂から上がると顰めっ面のさぁちゃんが携帯を突き出してきた。慌てて受け取って携帯を見る。表示された名前を見てげんなりする。

「うぇ…」

 やっべー父さんに連絡するの忘れてた。いやそれならすぐに出て言えばいいんだけど、今面倒な奴が家にいるからなんか言われそうだなぁ。

「出ないの」
「え? …いや、出るよ」

 なら早く出ろやと言いたそうな目で睨まれて、俺は通話ボタンを押した。

「もしも…」
『あ、マサぁ? 父さんな〜今日ちょっと帰れそうになくて〜』
「……まさか今外?」

 ていうか父さん酔ってるよね? 絶対酔ってるよね?
 ガヤガヤと煩いバック。携帯を耳に押し付けて聞き逃さないように気を付けた。

『だからぁ、マサー、知親くんに夕飯作ってあげてねぇ』
「え!? ちょ、何言ってんの!?」

 じゃあねとだらしない声を最後に、電話は切れてしまった。夕飯作ってあげてねって…。時刻は二十二時。
 ちょっと父さん連絡遅すぎでしょ!?

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