3

 俺たちのファーストコンタクト。それは体育の時間に訪れた。二人組を作らなければならなかったのだ。俺たちは浮いていた。だから、必然的に組まされちゃったわけだ。

「あー、だりーね」

 チカちゃんは体操服をぱたぱたさせて風を送り込みながら、俺を見る。何もしていないのに、汗が浮かんでいた。夏だからだ。俺は日差しの下でくらくらとしていた。チカちゃんの言葉は聞こえていなかった。無視されたと思ったのか、チカちゃんは俺の顔を掴んでぐいっと自分の方に向けた。

「きーてんの?」
「っ、ぁ、え…?」

 俺は眉をくいっと上げたチカちゃんを見て硬直する。当然だ。普通の人ですら目を合わせることができないのに、チカちゃんのような、見るからにチャラい不良とどうして普通に接することができようか。

「あ、つ、い、ね」
「う、…うん」

 怖い。ついでに頬に指が食い込んで痛かった。
 逃げ出したい。だけどそんなことできなくて。
 にっこり笑ったチカちゃんは、漸く俺の顔を解放した。

「俺ねぇ、キミと話してみたかったんだぁ」

 そんなこと言って、飽きたら捨てるんだろう?
 俺はそう思ったんだけど。

「こんな見た目じゃん? 頭も良くねーし、みーんな、俺を変な目で見る。でもさぁ、キミは俺をそんな目で見ない。皆嫌いって顔してる。俺を特別嫌ってないのが嬉しいんだ。ありがとね」

 それと。良かったら友達になって欲しい。チカちゃんは照れ臭そうにはにかんだ。










「マサ?」
「……え?」
「どうしたんだ、ぼーっとして。体調が悪い?」
「んん? いーや、大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけ」

 心配そうに見つめてくる父さんに笑いかける。チカちゃんは探るような目で俺を見た。

「俺、もー寝よっかな」
「そうか。あ、布団は部屋の外に用意してあるからね」
「…は? なんで布団?」
「なんでって、ベッドに男二人はきついだろう?」
「…い、意味わかんねーんだけど」

 てーか、嫌な予感するし!
 顔を引き攣らせる俺、笑顔の父さん。なに考えてるのか分からないチカちゃん。父さんは言った。「暫く知親くんが泊まるって、話したろう?」

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