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 それ以上迫は何も言わなかった。だから俺は迫の手を引っ張り花の前まで連れて行くと、花の名前から花言葉まで話す。最初は何やら驚いていた迫だったが、次第にふんふんと頷きながら聞いていて、嬉しくなる。本当は花に興味がなかったんじゃないかと思っていたから。
 ある程度説明すると、相槌を打っていた迫が突然黙り込む。どうしたんだろう。気分良く話していた俺は急に不安になる。

「修二だ」

 迫が吐き捨てるように言った。習字? 俺は数回瞬きをする。そんな俺を見て語気を強めてもう一度言った。

「俺は修二だ」
「……ああ」

 迫の名前か。さっきの話、終わったんじゃなかったのか。
 迫はじっと俺を見る。呼べと目が語っている。

「…し、しゅうじ」

 うわ。
 なんだか、友達っぽい。くすぐったくなって顔を逸らしてしまった。














 それから戻ってきた真樹さんや花満さんと暫く話していたら(といっても主に話していたのは花満さんたちだが)、もう日が落ち始めていたので、帰ることにした。

「また来てなー。迫くんも」

 にこやかに俺たちを見送る真樹さん。隣でおばさんと花満さんも頷いている。迫は「……おー」とぶっきらぼうに答える。
 花屋を後にした俺たちは夕日に照らされている道を歩き続ける。角を曲がり、進み、また曲がり……というところで、あれと思う。俺の家はこっちだが、迫の家もこっちなのか?

「迫」
「ああ!?」

 名前を呼んだだけでキレられた。

「名前で呼べっつったろ!」
「……ああ」

 一回だけじゃなかったのか。

「……修二」
「…んだよ」

 口調は素っ気ないが何となく嬉しそうだ。機嫌は悪くないらしい。

「家、こっちなのか?」
「……いや」

 違うのかよ。じゃあなんでこっち来てるんだ。

「お前ん家、行っていいか?」

 俺はその言葉に少し驚く。いつも俺の家に行く時は、こんな訊き方じゃなかった。というか訊くなんてこともしなかった。本当に疑問なんだが、一体どうしたんだこの数日間で。

「どうだ?」
「…いいけど」

 そうか。そう言う迫――修二は嬉しそうに顔を綻ばせる。良く分からないが、前の修二より、今の方が好きだなと思った。

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