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 ……って、嬉しいってなんだ?
 暫くして俺は自分の心に問い掛ける。良く分からない感情なのは確かだが、嬉しいってのはちょっとおかしいんじゃないか。

「おい、渉?」

 名を呼ばれ、はっと我に返る。訝しげな顔をした迫が俺の顔を覗き込んでいる。鋭い目がじっと俺の目を見つめる。何か言おうとして――何故か息が詰まって、結局何も言えないまま、頷いた。迫は満足そうな顔をして、俺から視線を外す。花満さんが不思議そうな顔をして俺と迫を交互に見ている。

「えっと…?」

 一体何の話を? 疑問を口にした花満さん。ちらりと迫を見ると、迫が素っ気なく答えた。

「何でもねー。こっちの話だ」

 むすっとしたままなので花満さんが気分を害したかもしれないと思って花満さんを見ると、そうですかと笑っていた。なんてできた子だ。

「愛華」
「何? お母さん。あ、ゆっくり見て行ってくださいね!」
「ああ」

 おばさんに呼ばれた花満さんはカウンターへ向かった。俺と迫は少しの間無言のまま立っていた。

「……なあ」

 迫が突然呟いた。漸く花について何か質問してくるのだろうか?

「お前…俺の名前、知ってるか?」

 は?
 何故今その話? 意味が分からず黙っていると、どうなんだよと急かしてきた。……迫の名前か。あー…。

「知らない」
「あ?」
「知らない」
「……いや、そんな気がしてたが…」

 がっくりと肩を落とす迫を見ながら首を傾げた。

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