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 花屋に着くまで、主に話していたのは真樹さんだ。俺は相槌を打つ程度で、迫は言わずもがな不機嫌な顔でずんずん歩いている。友達の多い迫のことだからすぐに真樹さんと打ち明けると思っていたが、俺の思い違いだったようだ。というか花に興味があるんだったら俺より真樹さんに訊いた方がいいんだけどな…。そんなに真樹さんが嫌いなのか?
 中に入ると、穏やかな声が俺たちを迎えた。店番をしていたのはおばさんだ。

「あらぁ、渉くん」
「こんにちは」
「……ちわ」

 おお、挨拶した。
 感心して迫を見ると、ギロリと睨まれた。無言で顔を逸らすと、チッと舌打ちの音が聞こえた。

「初めて見る子ねえ」

 むすっとしているだろう迫に向かっておばさんが声をかける。

「…迫です。守屋の――わ、渉、の友達です」

 え?
 俺は驚いて迫を見る。迫は俺を見ていた。言葉のあと、にいっと笑う顔を見て、何だか本当に――迫の友達になったような気になった。

「あらあ、そうなの」

 おばさんはにこにこと笑う。…友達じゃないと言う隙がなかったな。まあ、いいか、迫が言うなら友達なんだろう。……ん? そもそも友達ってどうやってなるものか知らないな。迫の方が詳しいから、迫の言葉に従っておこう。

「あ、俺着替えてくるな」
「あ、はい」

 真樹さんは爽やかな笑顔を残し、奥へと入っていった。

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