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「おい、ゴミ。どうだ、ボクが遣った世話係は」

 休み時間になると態々嫌みを言いに来るウェーズリーは、よっぽど暇なのだろう。俺には考えられないね。宮司が眉を顰めてウェーズリーをじろりと睨む。不良なだけあって迫力はあるが、日常茶飯事となっている光景で、誰も怖がる様子はない。
「ああ、最悪だよ」
「そうか、それならいいんだ。偶には役に立つな、あいつ」

 あいつ――とは、あの男のことだろう。偶にはということは、普段は役に立っていないのか。そういえば、ウェーズリーの近くであの男を見たことがない。もしかしたらウェーズリーはあの男があまり好きではなくて(それか体のいい駒だと思っているのか)、だから俺に遣ることで嫌がらせもできるし一石二鳥なのかもしれない。
 どっちにしたって、あの男を道具としか思っていないのだろう。ああ、そういうのが嫌いなんだよ、ウェーズリー。
 ウェーズリーは女のような可愛らしい顔を不快そうに歪めると、俺の机を蹴った。ガタン、と盛大に音を立てて机が床に転がった。宮司が般若のような顔をする。
 

「じゃあな、ゴミ。精々、あいつに気に入られるように媚でも売ってな。まあ、あいつがボク以外に尻尾を振ることはないだろうけれど」

 はあ?
 思わず目を瞬いてしまった。そんな俺を周りの取り巻きたちが、或る者はくすくすと俺を嘲り、或る者は謗る。
 あいつに媚を売る? そんなの絶対するもんか。そんなことするくらいなら俺は舌噛み切って死ぬね。
 ウェーズリーは俺に歪んだ笑みを浮かべてから、取り巻きに一言声をかけて教室を出て行った。クラスに重たい空気が流れる。

「準」

 宮司が無様に倒れた机を起こす。床に落ちた教科書なんかも机の上に整えて置いてくれた。しかも、教科書が折れ曲がっているのに気づいて、それを直してくれる。

「準」

 そして切ない声が俺を呼ぶのだ。

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