▼ 5
早速返信しようとしたけど、携帯を奪われてしまった。……なぜそんなことをするのか分からなくて、僕は不安になりながら彼を見た。
携帯画面を睨んでいる顔はいつもの不機嫌な顔より何倍も怖い。
「んだよ、これ…」
彼はそう呟くと、携帯を反対方向に折ってしまった。バキッと音が鳴って、僕は青褪める。
「な、なんてこと…!」
これじゃ、恭に連絡できない!
僕は何より先にそう思って、機能を無くした携帯を見つめる。
「なんのつもりだよ、テメェ」
「え…?」
彼は僕をジロリと睨んで携帯を放る。もうあれは壊れたものだから、大して気にならなかった。それよりも、彼の言っている意味が分からなくて、僕は眉を下げた。苛立ったように舌打ちをする。
「ふざけんなよ…っ!」
壁を蹴ると、彼は僕に近づいてきた。腕を上げた瞬間、殴られる――僕は恐怖を感じて目をぎゅっと瞑った。しかし、痛みはやってこない。代わりに訪れたのは、温かい体温と唇を覆う何かだった。
「……っ!?」
何をされているのか分からなかった。何で僕は彼に抱きしめられているんだろう。何で僕は――キスされているんだろう。
呆然としていると、唇が離れていく。同時に体温も離れていき、一気に体温がなくなったような気がした。
「テメェは俺のもんだろーが…!」
小さい声で叫ぶと、彼は体を翻して去って行った。押しつぶされた悲鳴のような声が、僕の頭の中で木霊する。
彼とキスをするのは初めてだった。彼は、僕がキスを強請ると汚い物のように見ていたのに…。そっと唇に手を遣る。ファーストキスの味は、分からなかった。
[ prev / next ]
[back]