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 たまきがどんな人物かを訊くと、恭は微妙な顔をした。

「いやあ、俺は喋ったことないし…」
「…見た感じ、とかなんかない?」
「うーん…。今は前以上に目立つようになったなあ、くらいしか」
「…え? 何で?」
「そりゃあれだよ。相沢陸。あいつが付き纏ってるから」

 彼の名前が出た瞬間、僕の胸がずきりと傷んだ。傍から見てもわかるくらい、彼はたまきのこと…。じわりと涙が浮かんで、唇を噛んだ。

「おいおい、泣くなって」
「…ぅぶっ」

 顔に制服を押し当てられて、ごしごし擦られる。め、目が痛い。ばしばしと手を叩くと、手が離れていった。

「ぶっさいくだなー、お前」

 にししっと笑う恭にムッとして睨むけど、恭は楽しそうに笑うだけだった。

「…もういいから、僕なんて放っておいてよ」

 恭はきょとんとして首を傾げる。恭には悪いけど、やっぱり一人になりたい。
 折角声をかけてやったのに、と怒るだろうか。きっと恭も僕に呆れて去っていってしまうだろう。
 溜息を吐いた僕は、恭から発せられた言葉に目を見開いた。

「やだよ」
「えっ…!」

 な、何で…!
 僕は唖然としたまま恭を見る。恭は、真剣な眼差しで僕を射抜いた。

「俺、まだ何で泣いたか聞いてないし」
「…それ聞いたら満足なの?」
「それは分かんねえ」
「……なにそれ」

 恭って変な奴だ。僕は何だか面白くなって口を緩める。そうしたら恭が優しく笑うから、僕の顔は熱くなった。や、やっぱり顔の整ってる人って凄いなあ、と思った。

「…失恋したんだよ」

 失恋しただけでこんなに大泣きするなんて、と思われたかな。ちらりと様子を窺うけど、恭はそうか、とだけ呟いた。

「そりゃ、辛いな」
「…うん」
「良太が好きなやつって、相沢陸?」
「――っえ」

 言い当てられて真っ青になった。だって、そうだ。僕たちは男同士だ。引かれるかもしれない。

「あ、別に引かないよ? だからそんな顔すんなって」

 嘘は吐いてなさそうだ。僕は安心して息を吐いた。

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