19

「あっちゃん、体調悪い?」
「えっ?」

 は、と我に返る。兄貴は心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。いつの間にか兄貴のところまで戻ってきていたらしい。

「いや、ちょっとボーッとしてただけ」

 首を振って否定すると、確かに兄貴は安堵した笑みを浮かべて、良かったと口にする。

「えーと、友達は帰ったの?」
「うん」
「じゃあご飯行こうか」

 そしてその日は結局昼食を摂り、似合う服が見つかるまで買い物を続け、家に帰ったのは夕方だった。







 翌日。俺は憂鬱な思いで体を起こす。時計の針はは九時を示している。加治との一方的な約束がなければ、まだ寝ていたところだ。
 リビングに入ると、朝食の支度をしている母親の姿が目に入った。椅子に座って新聞を読んでいた兄貴が顔をあげる。

「おはよう」
「おはよ」
「あっちゃん、今日早いね」

 ちなみに昨日は同じくらいの時間に起きたが、それは兄貴に起こされたからであって、先程も述べた通り、いつもであればまだ寝ている時間だ。

「……ちょっと用事があって、でかけてくる」
「そうなんだ。あっ、じゃあ昨日買った服を着て行ったら?」

 兄貴はにこにこと笑みを浮かべる。加治なんかのために折角買った服を着て行きたくない。しかし嬉々として提案してくる兄貴に嫌だとも言いにくい。
 他に来て行く服もなかったので、俺は渋々買った服を身につけた。

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