17

 路地裏まで来ると、加治は俺に覆い被さるようにして壁に手をついた。これが多くの女性が憧れる壁ドンというものか。……こんなことされて、何に喜ぶのか甚だ謎である。

「……なんだよ」

 少し強がって睨むと、加治は無表情で俺を見下ろした。

「お前、兄貴とかいたんだ」
「いるけど……それが何」
「いや? 似てないから、最初誰なのかと思っただけ」

 似てないって。……分かってるよそんなの。むっとしたとが伝わったのか、加治も不機嫌そうに俺を見下ろした。

「あっちゃん、ねえ」

 ぞわ、と背筋に悪寒が走る。兄貴に呼ばれるのは勿論何も感じないが、加治に呼ばれると気持ちが悪くて仕方ない。

「可愛い呼ばれ方してんな、魔王が」
「べ、別にいいだろ……っ!」

 俺だって好きで呼ばれているわけじゃない。ぎろりと睨むが、加治は表情を変えることなく俺を見つめる。

「あっちゃんて俺も呼んでいい?」

 いいわけないだろ。何を言ってるんだこいつ。


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