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 ……こうしている間に加治はもう行っているのではないか? 女もいるし、まさかずっと立ち止まっているわけではあるまい。
 俺は完全に油断していた。兄貴と外に出た瞬間、にこやかな笑みを浮かべた加治が先程兄貴が叩いた方の肩に手を置いた。

「あ、平山。偶然だね」

 あたかも今会ったかのような白々しさ。いや確かに偶然だったけど。

「あっちゃん、友達?」
「クラ――」

 クラスメイト。無難に答えようとした俺の言葉を遮り、「はい。加治と言います」と兄貴に笑いかける加治。

「そうなんだ。どうも、あっちゃんの兄の貴宏です。あっちゃん、かっこいい子だね」
「いえ、俺なんか全然」

 謙遜しているが、俺には分かる。当たり前だと思っている顔だ、あれは。
 ……あれ? というか、あの女性はどうした? きょろきょろと周りを見るが、姿がない。

「どうしたの?」
「え……と、加治、一人?」

 さっきの女性はどうした? と訊けば俺が加治の存在を知っていたことになってしまうので、遠回しに訊ねる。別に偶然会った友人に対しておかしな質問ではないはずだ。

「うん、一人だよ」

 ……え? じゃあ俺がさっき見た人はなんだったんだ?


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