だらしなく笑う犬と不良

CAGE-OPEN-
新田×紺野/暴力表現有/若干ネタバレ有?



「お前、ふざけんじゃねえぞ!」

 家に帰ると、鬼のような顔をした紺野が飛び出してきた。胸倉を掴まれ、俺を睨む。俺はそれをぼおっと見て、胸倉を掴んでいる方の手首を掴んで剥がすと、靴を脱いで部屋に上がる。

「おい、おい新田!」

 俺が手首を掴んだまま歩き出したからか、紺野の小言を無視したからか、後ろでぎゃあぎゃあと煩い。
 紺野の声にイライラとして、思い切りベッドに紺野を転がす。うおっという色気の何にもない声を出してすぐさま起き上がろうとする紺野に覆い被されば、びっくりしていた紺野の顔は不機嫌なものに変わる。

「何すんだよ」
「うるせえな」

 いい加減紺野の声を聞いているのが嫌になって、唇を塞ぐ。くぐもった声を出しながら俺を必死に押し返そうとしてくる。体重をかけてそれを阻止すれば、いきなり頬に衝撃。俺は体を起こす。じんじんとした痛みと熱が集まる頬。殴られたと自覚するより先に、手が出た。紺野の頬も思い切り殴ってやれば、ぐしゃりと目の前の顔が歪んだ。そして紺野の細くも太くもない首に手をかける。ぐっと絞めたら、更に苦しげにする。開いた口から唾液がだらりとベッドに流れ落ちた。汚ねえな。チッと舌打ちをすると、俺の手に震える紺野の手が触れる。引きはがそうとしているのか。笑みが零れた。自分でも今、凶悪な笑みを浮かべているということは分かった。

「ぐ、…ぁ、…っが」

 下から蚊みたいな細い声が聞こえてきて、俺は力を緩める。紺野の手も体もだらりと力を失って、俺は静かになった紺野の首筋を噛みながら服の中に手を入れる。何も反応がなかったらなかったで詰まらなくなって、俺は紺野の顔を窺った。虚ろな目をした紺野の目から、涙が零れ落ちる。

「今日は、俺と出かけるって、言ったのに」

 ああ、なんだ。そんなことか。
 俺は溜息を吐いて、紺野を抱いた。











 すっかり調子を戻した紺野が俺の頭を殴る。ヤったばかりだというのに元気だ。

「お前約束破るの何回目だよ」
「うん」
「うんじゃねえよ。次は絶対破らないってお前言っただろ!?」
「悪かったよ」

 煙を揺らめかせながら謝ると、紺野が脱力した。女じゃないんだから約束の一つや二つ、別にいいじゃねえかと思ったが、自分が紺野にそれをやられるのを想像したら、紺野を殴り殺したくなった。
 未だぐちぐち文句を言っている煩いのを横目で一瞥し、ふうと煙を吐く。あのゲームが終わってどれくらい経っただろうか。吉本は時々会うが、他の奴は良く分からない。俺が失ったのは権藤で、得たものは紺野だ。紺野は権藤そっくりだが、性格はまるで違う。権藤が性悪ビッチだとすれば、紺野は単純馬鹿。

「紺野」
「ああ? なんだよ」
「まだ怒ってんの」
「この顔を見て怒ってないと思うのかお前は」
「不細工な面だな」

 紺野はキーッと奇声を上げたかと思うと、今度はしょんぼりする。犬みたいな奴だ。俺はポケットを探って、ああそういえばこんなものあったなと思いながらポケットの中の物を取り出す。街中を歩いているときに押し付けられたイチゴ味の飴だ。

「紺野」

 紺野が顔を上げたのを見て、俺は手の中のそれを投げる。良い音を立てて紺野の額に当たる。紺野の額は少し赤くなった。

「いってえな! なにして」
「それ、やる」
「……え?」

 紺野は額に手を当てながら投げられた物を見て、目を丸くする。そして顔を上げ、俺を見て更に目を丸くした。そして、くしゃりと笑った。
 俺はぼんやりしながら、ああ、不細工だなあと思う。
 紺野が単純馬鹿でも、煩くても、不細工でも。俺はそんな紺野が好きなんだなと思った。











fin.

新田と紺野くんはこういう距離感だよなあ、と。
新田のEDで1つぞっとしたEDがありますよね。あれが一番印象に残ってます。

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