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 ……うん、どうしたものかな。ここでまさか噂の田中悠木に会うことになろうとは。っていうか同室になろうとは…。でも入るしかない。他に逃げ場所なんてないんだから。取り敢えずチャイム(一般家庭にあるやつだ。何故これをチョイスしたのか理事長の考えはさっぱりである)を鳴らす。
 ………ん? なんか無反応だな。留守なのか? 留守だったら入れないんだが…。
そうそう、ここはカードキーが生活の全てに役立っている。部屋に入るための鍵や買い物は勿論、食堂での支払いなど。これがなくなると再発行まで一週間かかるというのだから誰しも大事に肌身離さず持っている。意外にハイテクだよな。
 どうやら本当に留守らしかった。不良っていつ帰ってくるものだろうか。何だか俺のイメージでは夜遅く帰ってくるというか、寧ろ朝帰りする的な感じだが。え、これどうすんの? 俺どうすんの?

「最終手段は野宿か…」
「ぶはっ」

 直ぐ後ろで誰かが堪え切れないといった風に笑い出した。もかして田中悠木か?
後ろを振り向くと黒髪の寝癖だらけの整った顔立ちの男が立っていた。後ろを緩く結んでいて悔しくもサマになっている。

「あー、と。いきなり笑って悪かったな。俺は寮長の谷屋達だ。因みに三年。案内してやれなくて悪いな、ちょっと出ていた」

 申し訳なさそうに苦笑する姿を見て緊張が少しだけ緩まる。この人は大丈夫そうだ。

「…田中結城です。よく分かりましたね、ここにいること」
「おう、カウンターの前通ったら機械に記録されるようになってんだ。普通名前が記録されてるが一つだけ名前が無かったからな、もう来たのかと思って」

 なるほど、それは便利だ。

「んじゃ、改めて宜しくな。で、これがお前のカードキーだ。失くすなよ」
「そういわれると尚更失くしそうな気がしてきました」
「オイオイ……。まあ、お前も災難だったな。しかも原因作った奴と同室だしよ」
「まあ災難だとは思いますけど。猫に勝つつもりなんで大丈夫です」
「猫?」

 あ、やべ。なんか口滑ってしまったぞ。タイタニックに乗る気分でって言おうと思ったのに。

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